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浴仏節と龍華廟会
中国には、定期的に開かれる市の一つに「廟会」というものがある。仏教や道教などの記念日に寺院の中で行なわれる、日本で言う縁日のようなイベントで、四方八方から集った信徒達がお香を炊き、礼拝する。露天商の格好の商い場所でもあることから、廟会は廟市とも呼ばれ、民衆的な風習として各地で定着した。
  浴仏節  
 
陰暦四月八日(今年は西暦5月5日)は、仏祖釈迦牟尼の生誕日。この日を「浴仏節」と言う。一般の人々が、自分の誕生日に友人を招き、一緒に誕生日を祝うのは「過生日」。招かれたものはプレゼントを用意し、当事者は酒や料理で彼らをもてなし、さらに「長寿麺」をふるまって祝ってくれたことに感謝の意を示す。では、菩薩の「過生日」はどのように行なうのだろう。
北魏(386-534年)の楊之撰が記した《洛陽迦藍記》に、当時の京城洛陽での浴仏節の模様が詳しく記載されている。
「この日、寺院の僧侶達によって、釈迦の仏像は洗い清められ、各地から大勢の信者が参拝にやってくる。露天商も契機とばかりに山門に店を出し、一年でもっともにぎやかな日になる。」
宋代に入ると、仏教が主要宗教の一つになり、建立される寺院はますます大きく、ますます増加し、新たに作られる仏像も大きくなっていった。大半の仏像は泥を原料にしたもののため、水洗いには適さない。ゆえに仏像を洗い清める方法も変わった。清代の蘇州の風俗を記した《清嘉録》に、次のようにある。
「四月八日は釈迦文仏の生誕日。僧や尼たちが線香を炊き、花を飾り、ろうそくに火を灯す。水盆の中に置かれた銅製の仏像に、女性達が争うように賽銭を投げる。これ『浴仏』なり。」
この日は僧侶が小さな銅製の仏像を水を張ったたらいの中に安置して、釈迦が沐浴したことにし、女性達は自分も釈迦のように立派な子供を授かりますように、と争うようにこの銅像に施与をしていた。
 
  阿弥飯  
 
きれいな水で仏の銅像を洗い清める以外に、寺院の住職や和尚たちが社会に変わって信者に感謝の意を表す行為がある。米の一大生産地の中国南方では、四月八日当日は、僧侶が烏葉で米を染め、黒飯を作って振舞っていた。江南の方言では、「黒」を「烏」ということが多く、さらに仏教の吉祥梵語では、烏は阿弥陀仏の阿と同じ音であることから、この黒飯を「阿弥飯」や「阿弥陀仏飯」と呼ぶようになり、釈迦牟尼が信者に与えるめでたい食べ物とされ、信者はこれを食べると一生平和に暮らせると信じていた。「阿弥仏」という詩も残されている。
阿弥陀仏起何時,経典相伝或有之。
予意但知啖飯好,幾須拝仏頌阿弥。
寺院に参拝し、「阿弥陀仏」と数回となえるだけで阿弥飯にありつけたことは、当時の百姓にとって労せずして利益を得られるありがたいものであり、寺にしても安上がりに信者を増やせる格好の手段だった。
清朝に入ると、阿弥飯は民間の習慣になり、四月八日になると各家庭で阿弥飯を炊くようになった。だが残念なことに、この習慣は大多数の地域で廃れてしまい、現在では広西?族にしか残っていない。族は楊桐樹の葉を杵でつきくだいてできた黒い水に、もち米を一晩浸したものを蒸し上げて阿弥飯をつくる。農耕牛に対する感謝と慰問をこめて、阿弥飯は先に牛に食べさせてから、家族全員で頂いている。
  上海の龍華廟会
 
  上海の西南部、龍華鎮にある龍華禅寺は、上海有数の古刹である。伝説によると、三国時代、東呉の赤烏五年に、名僧康僧が交蹟(現・広東省)から海を北上し、現在の龍華鎮に降り立ち、そこから南京へ渡った。孫権が康僧の江南地方への仏教普及貢献を称え、この寺を建立した、とされている。仏教故事の中には、弥勒が龍華樹の下で仏になったことから龍華寺という寺名を賜り、この寺から龍華鎮という地名がついたとある。上海人も龍華寺は弥勒仏の道場(僧や道士が法事を行なうところ)と認識。
弥勒仏は「布袋和尚」とも呼ばれる、仏教の中で最も世俗化した仏の一人だ。低い背に丸々とした体躯、着るものに頓着せず、言うことは自由闊達、布袋を背負って大きな町や小さな農村で托鉢を行なう。小さなことにこだわらず、人のために吉兆を占い、迷える百姓に正しい道を示してやる。
陰暦三月三日は弥勒菩薩が円寂した日とされており、この日の龍華寺は盛大に法事を催し、弥勒菩薩を記念していたが、後に毎年三月三日は龍華廟会が催されるようになった。龍華もかつては上海でも有数の桃の木の美しい寺で、龍華産の「龍華水蜜桃」は江南の有名品種になっており、龍華に桃鑑賞に行くのが上海の春の行楽の定番になっていた。上海で桃の花がほころび始めるのは、陰暦三月初旬、中旬には満開を迎える。清朝末期、龍華廟会は従来の三月初三から三月十五に改められ、上海地区最大且つ盛大な廟会になった。
今年の龍華廟会は上海市旅遊事業管理委員会と上海市徐匯区人民政府主催で、4月21日から5月7日まで開催される。興味をもたれた方は、一度足を運んでもらいたい。
 
   
 
  写真説明  
  1.廟会時期の賑やかな露天商売。
2.自転車で龍華廟会に参加するのが外国人たちの流行だった。
3.龍華廟会の帰りには桃の花を一本買うのを忘れずに。
 
  作者紹介  
  薛理勇  Xue Liyong
1982年に上海市歴史博物館に入り、上海史を研究。主な著書に「上海路名地名拾趣」「閑話上海」「上海老城廂史話」「上海掌故辞典」等。