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Business Woman Interview No.39
  東華大学紡績学院兼任教授
紡績顧問/天然染色専門家紡績学工学博士
金成  JOAN,Sunghee Kim Ph.D.   さん
中国からアジア全体に伝わった色の数々、
掘り下げていけばいくほど、興味がわきますね。


韓国人の染色家・金成さんに、龍柏にある自宅兼アトリエでお目にかかることができた。86年に韓国ソウルから台湾へ。その後、大陸で研究活動を続けている金さんは、中華圏での暮らしがすでに17年目に入るという。この春に研究の成果である染色の本『宋作江南春水色』が出版されるためたいへん多忙な金さんだったが「染色ってどんな色が出るのか予測できないのがおもしろい。不思議な世界なんですよ」とその奥深さについて、たっぷり語ってくださった。
  現在金さんは東華大学で教鞭をとっておられるそうですね。
東華大学でパターンの講義をパートタイムで教えることになったんです。私は東華大学で博士号を取って、その後に助教授のカリキュラムも終わったので、講義ができることになりました。今は3つの講義枠を持っているんですが、何を教えたいかスケジュールを出して、受講したい生徒がいたら教えるという形ですね。
  金さんは海外暮らしがたいへん長いそうですが?。
韓国を出て16年です。長いですよね(笑)。台湾から日本、その後はフィールドワークで杭州大学(現浙江大学)に行って、それから上海の東華大学で紡績の博士号をとったんです。生まれは韓国の釜山ですが、父がサムソンの社員だったので物心ついた頃からソウルで暮らしていました。小さい頃から海外への憧れはありましたね。今は誰でも海外に行けるようになりましたけど、私が大学の時の韓国は海外へ行くビザもパスポートもなかなかとれなかったんです。今の中国に似てますよ。88年のソウルオリンピック以降、海外渡航が比較的自由になって、今では海外どこにいっても必ず韓国人いますけどね(笑)。私はアジアカップ86年の時に出たのでまだ出国しやすかった方なんです。
   はじめての留学が台湾だったそうですが、韓国で一流企業のOLをしていた金さんが海外へ行こうと思っ
   たのはどういう理由からですか?
大学を卒業して貿易の仕事を2年やってたんですけど、5時に仕事が終わったらどこか遊びに行くような、無意味な生活にうんざりしてしまって(笑)。しかも自分はあまり物事をわかっていないなと感じて、もっと学びたくなったんです。大学の時に1ヵ月だけアメリカに留学していたのでその影響もありますね。
  27歳で韓国を出た時、周りの反応はいかがでした?
86年当時は、韓国で女性が単身で海外に行くなんて考えられない風潮でしたね。親もあまり納得してなかったです(笑)。でもあの頃に海外留学する学生たちって、今の留学生とは違って死にもの狂いで勉強していたので、反対しにくかったのかな(笑)。
台湾ではまず1年間中国語を学んで、それから台湾大学に進んで、その後は大学の博物館で働きました。台湾大学では人類学専攻でマスターを取ったんですが、台湾での学生時代は、自分でも驚くほど勉強に打ち込めましたね。勉強して、ごはんを食べて寝るだけ、テレビもないシンプルライフでしたけど、学問的にはとても自分の能力が伸びたと思います。先生も素晴らしかったし、環境もよかった。学ぶことのおもしろさに気づかせてくれた時期でしたね。
台湾の仕事を終えてからは、大阪に行って民族博物館で博士課程をとる予定だったんですが、阪神大震災で民族博物館も壊滅状態になってしまって。それでいったん韓国に引き上げた時期もありました。
  韓国では金さんのように海外で研究をし続けている女性は少数派ですか?
もともと韓国は男尊女卑なんですけど、最近はずいぶん変わってきています。仕事してる女性や研究者も増えましたよ。私の場合、もしずっと韓国にいたら、こんなに長い期間研究はできなかったと思います。韓国では自分でやりたいと思っても先生がNoと言うとあきらめてしまうし、学問の環境がまったく違いますね。韓国での暮らしは、上海よりも自由がないし、ストレスも大きかったです(笑)。みんな考え方も同じだし、あまり冒険もしない。私の場合、外国に来て考え方が大きく開けた感じがします。世間の尺度よりも、自分のポリシーを持つことが大事だと思えるようになったのは、海外で得た学問以外の財産だと思いますね。
染めには草木、花などの素材を使用する。日本の和紙も金さんのお気に入りだ。
  染色を専門にしようと考えられたのは?
人類学の中で衣類やテキスタイル方面を調べているうちに、染色系に興味を持つようになったんです。台湾では小数民族の衣服や韓国や中国の歴史、フィールドワークで中国に来てからは、中国の少数民族の衣服や染色を学びました。上海の東華大学では学内にラボ(実験室)があることもあって、自ら染色の実験をするようになったんです。それまで本からの知識を吸収するだけだったんですが、ある日実験してみたら実は色が全然違ったんですよ(笑)。これはやはり自分でひとつひとつ実験して確かめなくては、と思って、上海では伝統的な染め物技術を持っている職人さんと一緒に試してみたりしました。東華大学では博士課程だったので、やはり自分専門のラボが欲しくて、それまで学内に住んでいたんですが今の住まいに移ったんです。学校ではいわゆる秘密の実験ができませんでしたから(笑)。
江南エリアの衣服を中心に染色を研究してきましたが、韓国の染色文化がとても中国の影響を受けていることを痛感しますね。中国の文化を学んでいくと、アジアの染色文化のルーツが中国にあることがよくわかるんです。中国からアジア全体に伝わった色を掘り下げていけばいくほど、興味がわいてきますね。
  作品を見せていただけますか?
(スクラップブックを見せながら)この糸はシルクなんですが、全部自分で染めたんです。これは和紙のもの、最近染めたんですが、すべて自然素材です。個人的にはナチュラルカラーのなんともいえないニュアンスがとても好きですね。自然素材なので環境にいいものばかりですよ。いずれはこれまで集めた資料や作品の展示会もやりたいですね。これを素材として、アートを作ってもおもしろいと思うんです。
  金さんにとって染色のおもしろさはとは?
やはり化学変化の妙にありますね。例えば化学的な薬品を使った色と自然素材を使った色って、まったく違うんです。ふだん皆が着ている服の色は、ほとんどが化学薬品で染めたものです。実験でいろんな素材を組み合わせて、どんな色になるんだろう?って試行錯誤するのが楽しくて。意外な色目を発見することもあるし、中国にもこんな色があるんだなってびっくりします。ただアースカラーっぽい原色以外の微妙な色って、中国では受け入れられにくいみたいですね。一度、ニュアンスカラーで染めたスカーフを北京のデザイナーに見せたら「地味すぎる」って言われるし。こういう色って中国ではむずかしいんだなと実感しました。
  もうすぐ金さんの染色の本が出版されるそうですが、この本についてご説明いただけますか?
この4月に「宋作江南春水色」というテキスタイルの本が出る予定なんです。中国にいる目的は自分の専門で本を出すことだったので、やっと目標が達成できた気分です。今はその仕上げの段階ですね。これまでの研究の集大成的なものになります。
  布に関しては98年からの研究の物ですが、中国の染め物の歴史がわかるような内容で、江南の服飾文化や技術やマテリアル、また染色の実験方法まで記しています。博士課程の論文がベースですが、一般向けにやさしく書き直しているので、専門書ですが色に興味のある人なら誰でも楽しめると思いますよ。色彩学を学ぶ人だけじゃなく、伝統文化に関心を持つ人やグラフィックデザインのアイデアのソースにもなるんじゃないかな。内容はすべて中国語で書いてるので、この面ではかなり苦労しましたけど(笑)。私はフィールドワークを大切にする方なので、考古学のテーマが出てきた時は美術館まで調べに行ったし、これまでに出版された染色の本とはまったくレベルの違うものになっているはずです。
書斎で調べものをする時間がいちばん落ち着くという金さん。藍染めのタペストリーもご自身の作品。
  中国人の色の感覚についてはどのように見られていますか?
さっきアースカラーの話が出ましたが、例えば私の作品を見て「きれいだけど、私たちの社会の色じゃないですね」と言われることがあるんです。こちらの方の場合、服でも好きな色を身につけるというより、流行や風潮で色を選ぶ人が多いようですね。はっきりした色は好きなようですけど、これを着たらどう思われるか?という気持ちが先に来ているように見えます。色の好みの幅が狭いし、まだ知識も少ない。例えば日本や欧米のように、微妙な色のニュアンスを楽しむようになるには、まだまだ時間がかかるかもしれませんね。
  これから染色の方面でやりたいことは?
自分のマテリアルでアートの作品を作りたいですね。あとはスタジオで教えることも考えています。実は中国で自然の染め物に対する特許をとったので、それが活かせたらいいなと思っているんですよ。プロダクトとしては、こちらで作った作品を日本のショップで売る話も進んでいます。自然の素材で染めた独特の色がいかに美しいのかを、もっと皆さんに伝えられたらと思いますね。
これまで長い間研究生活を送ってきましたが、まさかこんなに長くやるなんて思わなかったんですよ(笑)。そろそろビジネスでクリエイティブなことができればと思いますね。韓国で生まれて、台湾や日本、中国で学んだことをようやく活かせる時が来たのが、うれしくてたまらないです。
■金成(JOAN,Sunghee Kim)

1961年韓国釜山生まれ。83年ソウル明知大学家政科卒業、86年より台湾へ。94年台湾大学歴史系研究所修士課程卒業。96年杭州大学(現浙江大学)特約研究員を経て、97年上海東華大学紡績学院入学。2003年東華大学紡績学院博士課程修了。現在、東華大学で講師を務めながら、染色家としても活躍中。韓国語の翻訳による著書に<21世紀中国社会:1999年><考古学表題6専>などがある。

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