上海ウェネバーオンライン
中国(上海・北京)生活情報満載!!
特集
プリンタ・複写機市場
“消耗品”めぐる攻防
 
  俗に“消耗品ビジネス”といわれ、インクやトナーを利益の源泉するプリンタ・複写機。中国では消耗品のコンパチ品や詰め替え品が市場で一定シェアをもち、メーカーはこれらとの戦いを強いられている。コンパチ品が存在感を強める中、ビジネスモデルそのものを見直すところ、ユーザーへの純正消耗品の“啓蒙活動”を強化するところと、メーカーの対応はさまざま。消耗品ビジネスをめぐる攻防を追った。

電脳城や路面店で小売されているインク・トナーカートリッジ。写真はお客が後を絶たない上海市内の電脳城店内
 
 
特集1   特集2   特集3   特集4   特集5   特集6   特集7   特集8
 
  下降線を描く純正品率  
  本体(ハード)を安価で販売し、消耗品で利益を出すプリンタ・複写機のビジネスモデルを“消耗品ビジネス”、“インストールベース・ビジネスモデル”という。
中国のプリンタ・複写機の消耗品市場には純正品のほか、コンパチ(サードパーティ)品や詰め替え品、模倣品(ニセモノ)が存在する。メーカーにとり、これらは利益の源泉を奪う頭痛の種。しかしメーカーの思いとは裏腹に、プリンタ・複写機の“純正品”率は下降線を描いている。
インフォトレンズ社のデータによると、複写機用トナーの純正品率は、〇三年から〇五年まで年率一〇%弱で下降し、〇六年も下げ幅を鈍らせたものの、約三%でマイナス。〇六年の純正品率は五割強が見込まれている。インクジェットプリンタ用インクの純正品率も複写機用トナーほどの下げ幅ではないが、ここ数年で微減を続け、〇六年の純正品率は三五%強となっている。
下の記事にあるように、市場の成長率は鈍化しつつある。これまで高い伸び率に支えられ、収益を上げてきたプリンタ・複写機メーカーも、この一、二年で “純正品率低下”の問題に真剣に対峙せざるを得なくなっている。

 
  当局との連携で模倣品取締り  
  三月九日、淅江省臨安市の臨安銭王大酒店。上海IPG主催の淅江省質量技術監督局向け真贋識別セミナーが開かれていた。参加者は、淅江省質量技術監督局の職員一二〇人と、ブラザー工業、セイコーエプソン、キヤノン、コニカミノルタなどプリンタ・複写機メーカーら日系企業一〇社。商標保護を業務とする質量技術監督局の職員に向け、日系企業から消耗品と農薬についての模倣品の状況や、真贋識別方法の説明が行われた。
中国政府は〇一年のWTO加盟後、模倣品の取締りを強化している。模倣品製造の集積地となっている広東省や淅江省では、当局による模倣品差し押さえが頻繁に行われる。プリンタ・複写機メーカーは、調査会社を使って模倣品についての情報収集を行い、こうした当局(工商行政管理局、質量技術監督局、知的財産局、税関、公安)への通報を欠かさない。例えば、〇六年、コニカミノルタの通報によって、当局は全国四八カ所二〇〇件余りを取り締まっている。
このほかメーカーは、先述のIPGや欧米系メーカーも参加する中国外商投資企業協会優質品牌保護委員会(QBPC)などの活動を通じ、模倣品阻止を目的にメーカー間で共同歩調をとっている。
インク・トナーの空カートリッジ回収を呼びかける看板。“加墨・粉”(詰め替え作業)サービスも案内している
当局は積極的に模倣品取り締まりを行っている(写真提供:コニカミノルタ)

ブラザー工業のトナーカートリッジ
セイコーエプソンのインクカートリッジ
コンパチメーカー大手の天威のインクカートリッジ
 
  コンパチ品メーカーが躍進  
  「ニセモノの問題はそれほど心配していないが…」、あるメーカー関係者はこう漏らしてため息をついた。当局の積極的な対策が功を奏し、模倣品問題は少しずつ解決に向かっている。しかし、プリンタ・複写機メーカーに“解決の曙光”はまだ見えない。  
ここ数年、プリンタ・複写機の高性能化で、インク・トナーカートリッジへ求められる技術水準が高まっているのを背景に、コンパチ品メーカーの淘汰がはじまっている。別のメーカー関係者が明かしたところによると、〇三年頃まで二〇〇社あったインクジェットのコンパチ品メーカーは、現在一〇〇社まで数を減らしている。  
しかし、こうした中で生き残ったコンパチ品メーカーの製品が質を高めており、一部消費者の支持を集めている。ある調査会社は、今後、コンパチ品がシェアを高めていくと予測する。また、環境保護、国内産業保護の観点から、政府は今後、コンパチ品メーカーを推奨していくと憶測するプリント・複写機メーカー関係者は少なくない。
 
  ブランド保護のため“純正品啓蒙”  
  こうした厳しい消耗品ビジネスの環境で、最も思い切った施策に出たのがインクジェットプリンタを展開するセイコーエプソン。〇四年、MEシリーズを発売し、“消耗品ビジネス”そのものの見直しを業界に問いかけた。MEシリーズのビジネスモデルは、「ハードでも儲け、インクを割安で提供する」というもの。このモデルは市場で支持を集め、MEシリーズはヒット製品となっている。現在、他メーカーがこのビジネスモデルに追随する動きは出ていない。
メーカーにとり、“純正品率低下”は、利益面だけの問題ではない。粗悪品を使ってプリンタ・複写機にトラブルが発生すれば、自社のブランドに傷がつく可能性がある。消費者への啓蒙は、今後もメーカーが地道に続けていかなくてはならない使命だ。
次に、プリンタ・複写機と消耗品をめぐ る各メーカーの動きを追う。
 
  年率約8%で販売台数を伸ばす  
 
06年11月に開かれた上海IPG主催の上海市工商行政管理局向けセミナー
インフォトレンズ社の調べによると、2006年、中国プリンタ市場の販売台数は785万台が見込まれ、前年比8.4%増、販売金額は100億1,300万元の見込みで、同3.4%増で伸びた。一方、複写機市場の販売台数は37万5,000台が見込まれ、前年比7.8%増、販売金額は39億400万元の見込みで、前年から1.4%増で伸張した。
プリンタ市場は、05年まで高い伸び率を保ってきたが、06年に伸び率を鈍化させた。07年は緩やかな成長軌道を描くものの、08年以降、マイナス成長が予測される。
金額ベースでは、ここ数年落ち込んでいた伸び率が07年を境に回復、09年まで横ばいから微増での推移が見込まれる。
複写機市場は05年に続き、販売台数の伸び率がさらに下降、5年来の最低水準に達した。販売価格の下げ幅は縮小し、販売金額はプラス成長に転じている。
 
  知的財産権問題研究グループ IPGの取り組み  
 
06年11月に開かれた上海IPG主催の上海市工商行政管理局向けセミナー
日本貿易振興機構(ジェトロ)が事務局を勤めるIPGは、北京、上海、広州に分かれ、活動展開している。会員企業は、北京IPG80社、上海IPG126社、広州67社。日系企業の知的財産問題の情報交換の場として定着している。
上海IPGは、華東地区における当局との協力関係を深め、模倣品摘発の効果を高めるため、当局職員向けのトレーニングセミナーを開催している。06年11月には、取締り実行部隊≠フ上海市工商行政管理局向けセミナーを、模倣品流通量が多いトナー・インクカートリッジを対象に実施。参加した70人の職員に、日系企業からプレゼンテーションが行われた。3月9日には、淅江省質量技術監督局向け真贋識別セミナーが開かれ、職員120人にプリンタ・複写機メーカーの関係者が講演を行っている。
 
  エプソン  
  ハードで儲ける新ビジネスモデルを浸透 
  インクジェットプリンタを展開するセイコーエプソン。中国ではHP、キヤノンと激しいシェア争いを繰り広げている。二〇〇四年より、中国市場に特化した新たなビジネスモデルを構築し、ユーザーからの支持を集めている。  
  従来型モデルで壁に突き当たる  
 
 
セイコーエプソンは、主力製品であるインクジェットプリンタの展開を一九九八年の中国ビジネス統括会社・エプソン(中国)有限公司の設立後に本格化させた。二〇〇四年以前は、デルやIBMのPCとのセット販売を進め、プリンタ本体の出荷台数を伸ばすことで消耗品(インクカートリッジ)の拡販に努めた。しかし、「コンパチ品やニセモノが出回る市場には、従来型のビジネスモデルは最適ではないと認識せざるを得なかった」と、広瀬豪人・エプソン(中国)有限公司信息産品営業本部総監は振り返る。
コンパチ品の存在感が強まったことに加え、「セット販売」の販売戦略も災いした。“貰ったプリンタ”には割安のコンパチ品で充分――こうした消費者心理もあり、同社のインクの純正品率は緩やかな下降線を辿った。そこで、同社は〇四年にMEシリーズを中国市場限定で投入、新たなビジネスモデルの構築に乗り出す。
 
  “MEモデル”で業界に衝撃走る  
 
MEシリーズのインクカートリッジのパッケージ。従来の半額の価格設定で、コンパチ 品との価格差を15元にまで縮めた。パッケージには、真贋を見分けるためのさまざまな工夫が施されている
MEシリーズのプリンタ本体は、インクジェットプリンタの市場平均価格に二〇〇元を上乗せして販売。一方、インクカートリッジは従来品の半額にした。例えば、ME1+はモノクロ四五元、カラー七二元に設定、コンパチ品との価格差を一五元にまで縮めた。
「インクを高く売って儲けるスタイルは中国市場には合わない。一八〇度発想を転換し、ハード販売でも儲ける仕組み作りに挑戦した」(広瀬氏)
発売一年目は市場の理解を得られることなく、数量ベースのシェアは下落、ライバル二社に水を開けられた。しかし、「インクを使えば使うほどお得なプリンタ」とアピールを続けたことで、シェアは徐々に回復し、〇六年末にはライバルと並ぶシェア三〇%前後に躍り出ている。
従来型モデルを続けるライバル二社との金額ベース(プリンタ本体)での差は歴然としている。市場調査会社・Gfkグループのデータによれば、〇六年、金額ベースのシェアでHPが三〇%前後、キヤノンが約二〇%だったのに対し、エプ ソンは四〇%弱と業界トップ。現在、ME シリーズで使用されるインクカートリッジの純正品率は六割で、以前の三割から大きく回復している。
エプソン(中国)有限公司の広瀬氏

 
  “純正品”普及にさまざまな施策  
 
手前が模倣品。本物とほとんど見分けがつかない。こうしたニセモノには法的手段を採る
同社は純正品の普及のため、MEシリーズの投入以外にもさまざまな施策に、業界の先陣を切って取り組んできた。
〇二年、インクカートリッジのパッケージに、カラーホログラムに対応した特殊シールをはり、真贋を確認できるようにした。同時に、八桁の乱数をパッケージに掲載、純正品を確認する電話の問い合わせに対応している。  
〇三年には、“マイレージ”サービスをスタート。純正品の購入に対し、ポイントを加算、ポイントの点数に応じて家電や家具などをプレゼントする。この“マイレージ”の会員は、現在全国一〇万人。ユーザーベースで使用量などをデータ管理し、個別でのセールスプロモーションでも活用している。
企業顧客へのサービス向上にも努める。「工場などで大量にインクを使うパワーユーザーには、純正品を使ってもらえるよう、インクを割安で提供し、大量に出る空カートリッジの回収に出向く」(広瀬氏)。企業の調達課には、“マイレージ”の積極的な活用を呼びかけている。
 
  純正品率のさらなる向上を目指す  
 
全国400ある一次代理店のサポートに力を入れる






こうしたエンドユーザーへの啓蒙活動と並行し、代理店サポートにも注力する。同社の一次代理店は全国に四〇〇社、二次代理店を含めれば数千社に上る。昨年より、一次代理店の会員作りのサポートを本格化させた。
「これまで“御用聞き”的な要素が強かった代理店に、カスタマー・リレーションシップ・マネジメントの重要性を説き、会員の囲い込みを呼びかけている。我々の顧客管理のノウハウを提供するなどで、支援を続ける」と広瀬氏は説明する。
代理店支援の背景には、当然、純正品率を高めたい同社の思惑がある。インクジェットプリンタ本体の出荷台数の伸びは〇八年をピークに頭打ちとなることが予測され、「メーカーにとって純正品率をいかに高められるかが今後も課題になる」(広瀬氏)。
“MEモデル”は業界のスタンダードになり得るのか。MEシリーズの動向に、業界の注目が集まっている。
 
     
  特集1   特集2   特集3   特集4   特集5   特集6   特集7   特集8