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特集
「現地化」への関門 社員研修の現場
 
「ものをつくる前に人をつくる」とは、故松下幸之助氏の言葉である。日系企業がいま、中国人社員の教育に力を注ぎ始めている。研修の現場で社員の笑顔があふれているのとは対照的に、企業には不安とも焦りともいえぬ強い危機感が存在する。社員研修は果たして「現地化」への布石となるか――。
 
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  今なぜ社員研修なのか?浮かび上がる企業の課題
 
  「発展空間」の機会を創出  
  人材の定着にも寄与する社員研修  
 
ここ数年、社員研修を導入しようとする会社の動きが活発化している。「優秀なローカル人材の力なくして、中国市場を攻略することはできない」とは、もはや業界の垣根を越えて進出企業の共通認識となった。企業競争力のカギを握る人材を社内で育てていかなければならないとの危機感が、社員研修へと向かわせる理由のひとつだ。
また、事業規模の拡大に応じて専門的な知識や豊富な経験をもつ優秀な人材を外部の市場から十分採用できずにいる企業も少なくない。このネックを解消する手段としての研修ニーズも高まっている。
こうした会社側の考える社員研修の目的に、社員からの目線も加えることが重要になる、と指 摘するのがマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティングでグローバル人事戦略コンサルティングの中国エリアを統括する松崎肇氏だ。
日系企業にとって、人材の流動性が高い中国では優秀な人材を獲得することよりも、むしろ定着させることの方が難しいとされる。社員研修は会社の企業競争力を高める施策としてだけでなく、同時に優秀な人材の定着施策でもあるというのだ。松崎氏は言う。
「人材の獲得と定着という人材マネジメントの最終目標にあって、現在の中国で最も効果的な報酬は『給与』や『福利厚生』ではなく、『仕事・キャリア』だ。優秀な中国人社員ほど、会社に対して自分のキャリアや専門性を高めることができる発展空間を求めている。そのため、より高い仕事・キャリアへ到達するための研修はキャリア志向の優秀な中国人社員にとって企業の魅力のひとつとなる」
これを裏付ける興味深いデータがある。マーサーが中国で欧米企業を中心とする二〇〇社に調査したところ、人材育成への投資が高い企業ほど離職率が低くなるという結果が得られた(上図)。従業員一人当たりに年間一万元の研修費用を投入した会社は、まったく研修を行っていない会社と比べて、自己都合による平均離職率が約一〇%低くなっている。 
 
  管理職候補に先行投資  
  笑い声も飛び交う研修現場  
  五月一八日、上海オリンピックホテル。UFJ綜研(上海)有限公司による「新任管理職研修」の二日目が行われていた(下記参照)。参加人数は二五人。そのうち一〇人が女性だ。
グループワークが中心の授業では、講師の問い掛けにあちこちから意見が飛び交い、時には笑い声も聞こえてくる。  
参加者は新任の管理職だけでなく、将来の管理職候補として会社から送り出された人も多い。初めて参加したという日 系メーカー勤務の戚菊燕さん(女性、二五歳)もその一人だ。「まだ管理職には就いていないけど、役に立つことが多い。管理職の人だけじゃなくて、会社のみんながこういう機会にもっと参加した方がいいと思うわ。だって、上司から言われることを部下が理解できないと結局は意味ないでしょ」と彼女は話す。
 
  「研修=投資」の認識高まる  
  ニーズに合わせ研修コースを細分化  
 
講師を企業に派遣して行う「企業研修」の伸びが顕著だ
「社員研修を実施するかどうかは、総経理の考え方ひとつで決まる。研修はコストではなく、投資との認識は着実に高まっている」。UFJ綜研(上海)有限公司の人材マネジメントコンサルタント、林久美子氏はこう語る。
同社の公開研修コースの受講料は、前述した「新任管理職研修」(二日間)が一人当たり二六〇〇元。決して安くはない。だが、研修の実施回数と参加人数は年を追うごとに増加している。
同社の公開研修は、階層別に管理職、中堅社員、一般社員向けの各コースがあるほか、生産部や営業部、秘書など部門別のコースも設置する。同社では今後、新たな研修コースの開設も検討中という。
同社の公開コースの中で最もニーズが高いのが、マネジメント関連の研修だ。今やマネジャー人材の不足は日系企業が一様に抱える悩みである。
林氏は「これは日本でもありがちだが、マネジャーなのに自分の会社を批判してしまう。その前に、組織の中でマネジャーとしての自分の役割は何か、やるべきマネジメントの仕事がきちんとできているのか、と、自己を振り返らせることがポイント」と説明する。  
一方、ここ二〜三年でビジネスマナーやコミュニケーション研修も増えてきた。日本人上司とのやり取りにおいて、ギャップを感じている中国人社員は非常に多いと林氏は言う。「例えば、日本人は仕事上で何か問題が起きた時に『?』と尋ねるが、これを中国人社員は自分が責められていると感じてしまう。そこで『私は悪くない』と自己防衛に入る。また『日本人は中国人を信用していない』と短絡的に思う社員も多い」
だが、日本人が多用する「?」は、原因をとことん追究するための、いわゆるトヨタ流の現場改善策で、個人を責めているわけではない。同社のビジネスマナー研修では、日本企業独特の考え方や仕事の進め方の本質を教えることで中国人社員の不必要な不信感を取り除くように努めている。
 
  「いかに育て、いかに定着させるか」  
  長期戦の覚悟も必要  
  異文化間のコミュニケーションについて、友豊諮詢(上海)アドバイザーである川辺哲哉氏は「辛抱強く時間をかけていく覚悟が必要だ」と語る一方、「中国人を平均化して推し量ったり、人材管理をマニュアル化することはいけない」と注意を促している。「中国人の個性はいわば寿司のネタのようなもの。他と同じであることを厭う気持ちを十分に汲み取りながら、個性を重視した接し方をするのが必要だ」(同氏)
一方、パソナ上海・市場部シニアマネジャーの松村扶美氏は「『ほう・れん・そう』など浸透しにくいビジネス習慣も確かにあるが、人材研修に対する中国人のマインドは高い」と研修現場に接しての感想を漏らす。
パソナ上海(前パヒューマ上海、五月より資本構成の改組とともに現名称に変更)の研修ビジネス事業は九八年よりスタート、クライアントの要望にしたがいオーダーメイドの研修プログラムを作成、出張ベースで対応するほか、公開講座も月一回、同社オフィスで行っている。ただし、「あくまで紹介事業がメイン。小人数制。クライアントにおける人材の育成と定着のための側面サポートが目的」(松村氏)という。もっとも、蘇州や張家港など上海市外のメーカーからの引き合いもあるなど、補完ビジネスにとどまらない動きも見せている。
同社が最も重点を置くのはビジネスマナー、受付、セールス育成などの講座である。有資格者を講師として招き、「いかに自分を演出するか」をテーマとした「パーソナルカラー」「パフォーマンス」などユニークな講義もメニューに盛り込む。
新たに準備を進めているのが「入社前事前研修」である。同社では紹介した人材が短期離職した場合、その原因をフィードバックし紹介事業の拡大に役立てている。企業クライアントと人材バンク登録者両者の橋梁を担うべく、こうした「サービス的要素が強い」(松村氏)研修実施にも今後より力を注いでいくものと見られる。
いかに育て、いかに定着させるか――。社員研修は「現地化」の成否を決める関門ともいえる。研修市場もまた、こうした現実と企業中枢からのニーズをくみとりながら今後も活況を見せていくといえよう。
 
  「新任管理職研修」の風景─UFJ綜研(上海)  
 
「参加者は全員社会人であるため、一方的ないわゆる講義形式は好まれない。講師や参加者同士の相互交流から学ぶことが教育効果を高める」と林氏

ストローと紐だけを使って、落下させた生卵を割らないように工夫するゲーム。チームマネジメントの秘訣を学ぶことが目的。5人一組のグループは意見を出し合い、工夫を凝らす
 
 
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