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特集
電力・エネルギー事情の検討
  日本貿易振興機構・上海センター
古谷 寿之 氏(経済信息部長)
 
 
古谷寿之 氏
日系企業が直面する電力不足問題について
日本貿易振興機構(ジェトロ)上海センターでは、日系企業が直面する電力不足問題について、随時、実態の把握・分析に取り組んでおり、最新の動向についてジェトロ通商弘報、当センターのホームページ等を通じて公開しています。
今回は華東地域の日系企業が直面する電力問題の現状について、昨年秋に実施した二〇〇四年夏の電力問題に関する実態把握調査を中心に御紹介します。
  ● 製造業の六〇%が電力供給調整の対象に  
  ジェトロでは、昨年秋に華東地域の日系企業約一五〇〇社を対象に〇四年夏の電力問題実態把握調査(以後、「今次調査」)を行ったところ、三六五社から回答を得ました。その結果、〇三年夏を対象とした調査(以後、「前回調査」)と同様に、過半数を超える五四%の日系企業、製造業に限定した場合には六〇%の企業が何らかの形で電力供給調整に直面していることが明らかになりました。
(Note :「電力供給調整」とは操業日・時間の変更などの「ピークシフト」、操業日・時間の制限、使用電力量削減などの「ピークカット」のほか、空調機器等使用停止等があります)
また、電力問題は地域差が非常に大きいのが特徴です。「上海力缺、江重缺、浙江力危机(上海の電力不足、江蘇省の深刻な電力不足、浙江省の電力危機)」と称されるように、浙江省では製造業の実に九五%が「供給調整を受けた」と回答し、とりわけ厳しい電力事情に直面しました。江蘇省では今次調査で六四%と前回調査の四四%から大幅に悪化しました。同省に関しては、発電施設の稼働率にあたる負荷率が昨年夏の一時期、九割を超えたとの報道があったように、可能な限りのピークシフトが講じられた模様であり、多くの日系企業がそのあおりを受けたことを裏付ける結果となったと考えられます。対照的に上海市では今次調査四四%と前回調査の六六%から大幅に下落となりました。これは、上海市が他地域からの買電を増大させたことに加え、市当局の「外資への電力の優先供給」との政策がある程度、功を奏したためと見られます。
 
  ● 納期遅延が被害内容として最多  
  「自社ないし関連会社への電力供給調整で被害を受けた」と回答した企業の割合は、全体で四九%、製造業に限定した場合、五五%と前回調査より若干、下落しました(表参照)。但し、被害を受けなかったと回答した企業についても「顧客と納期調整を行った」「製造部門は土日に操業シフト」など、企業の自助努力でリスクに対応した事業調整を予め講じたことにより、被害を回避した例が少なくなかったものと考えられます。おそらく、〇三年夏以降の経験を踏まえ、自主的に避難措置を講じた結果、被害回避につながったものと推測されます。電力供給調整による被害について(製造業限定)
具体的な被害内容としては「納期遅延」が三一%、「生産量減少」二五%、「雇用経費増」一五%となっていますが、これは前回調査と同じです。なお、「生産量の減少」と回答した企業の中には、「対前年比三割減」(江蘇省製造業A社)「対前年比半減」(浙江省製造業B社)との厳しい事例も明らかになりました。
「設備・機械の損壊」との回答が今次調査で少数ながら(五%)あったことも注目されます。これは突発的な停電によるものとみられ、停電による物理的な損害が一定程度、発生したものと見られます。
 
  ● 倍増する自家発装置導入企業  
  電力不足問題に対する企業の自己防衛手段としては、自家発装置(自家発電装置)の導入以外に有効な方法がないのが現状です。
今次調査では、製造業のうち「既に自家発装置導入済み」と回答した企業は三二%と前回調査(一六%)から倍増となり、この一両年の間に自家発導入が飛躍的に進んだことを裏付ける結果となりました。
地域別に見た場合、上海市、江蘇省が各々二〇%、二九%に留まっているものの、浙江省では七一%に達していることが、注目されます。この背景には、危機的な電力事情のほか、企業の自家発装置導入時・運転時に、市レベル、開発区レベルで一定のインセンティヴを行っていることがあります。
また、「導入を検討したものの断念」と回答した企業の主な理由としては、「企業の使用電力量に合致する自家発装置がない」(江蘇省製造業E社)「(自家発装置の)電圧と供給される電圧との差による機械の故障懸念」(江蘇省製造業F社)「(自家発装置の主な燃料である)ディーゼル油の供給懸念」(浙江省製造業G社)などの回答がありました。
また、オペレーションコストについての質問に関しては、製造業の約六割強が「大きな負担ではない」「リスクを考えれば許容範囲」と回答している一方、同三割弱の企業が「負担が大きすぎるので運転時間を極端に制限」(浙江省製造業H社)「経営上、かなりの負担」(江蘇省I社)と回答するなど、企業の体力により大きく見解が分かれています。
また、「導入を検討しない」と回答した企業の理由について、約六割強の製造業が「コスト面(イニシャルコスト、オペレーションコスト)からの懸念」と回答していることからも明らかなように、コスト面で見合うかどうかが自家発導入時の判断基準であることが明らかとなっています。
また、「導入後の問題点」としては、「自家発装置自体のトラブル多発によるオペレーションコスト増」(浙江省製造業J社)「騒音被害」(浙江省製造業K社)等がありました。
コスト面から見た場合、地場製の中古品が最も廉価ですが、反面、「導入後に自家発装置の故障続発」(浙江省製造業L社)「アフターサービス面で不満」(浙江省M社)といった意見がある反面、欧米、日本製の自家発装置に対しては、「イニシャルコストが高い」(浙江省製造業N社)「納品まで時間がかかる」(浙江省製造業O社)との声が寄せられました。
 
  ● 六割の日系製造業が電力問題は今後の投資に影響と認識  
  「電力不足問題は今後の対中投資を検討する上で大きな考慮要因となり得るか」との問いに対し、製造業の六割が「なり得る」と回答しているように前回調査と同様に、過半数を超える企業が今後の投資計画に与えるリスク要因と認識していることが改めて明らかになりました。
また、「この問題は御社の中国投資行動を慎重にさせる方向に動いているか」との問いに対しては、製造業の四割弱が「慎重な姿勢に傾いている」と回答していますが、浙江省では、製造業の五〇%が「慎重な姿勢に傾いている」と回答しており、電力危機が企業心理に深刻な影響を及ぼし始めていることが明らかになりました。
 
  ● 今後の見通しについて  
  中国政府は電力問題が経済成長の制約要因となる事態を避けるべく、需給両面から対策を取っており、「二〇〇五〜二〇〇六年の間、マクロ経済調整に伴い、電力需要が抑制される一方、発電所建設の加速化等により、全体としては全国の電力需給逼迫は緩和の方向に転じる」(国家電網公司)との見通しを明らかにしています。しかし、経済成長に見合う電力需要を賄うためには、毎年平均三〇三五万KWの電源設備が必要とされ、巨額の資金が必要とされています。マクロ経済調整の行方と併せて注目されます。  
  中国エネルギー需給構造の検討
中国のエネルギー需給構造の特徴は、石炭がエネルギー消費の六六%を占め、「石油プラス天然ガス」が中心の日本、韓国と大きく異なることだ。その一方、産業発展、ライフスタイルの変化に伴い、石油輸入が急増、世界市場に大きな影響を与えている。
天然ガスでは「西気東輸」のパイプラインが上海でも利用可能になったのに加え、LNG(液化天然ガス)利用計画が進展、石油と同じく使用量は着実に増加傾向。
進出企業に影響の大きい電力不足は、電力消費量が華東地区で前年比二〇%以上伸びる傾向が続くなど、先の見通しはまだ見えないようだ。日系企業は自家発という自衛策を強めている。
明確なエネルギー需給の中長期計画を確立しえないまま、急速な産業発展、市民生活がエネルギー消費型に変化する、という構図がある。(編集部)
 
  ● 世界第二位のエネルギー需要、石油消費国に 石油輸入量急増、世界の伸びの四割占める  
  英国の石油メジャー、BP(ブリティッシュペトロリアム)が昨年発表した「世界エネルギー統計年鑑」によると、中国のエネルギー総需要(〇三年)は、前年比一〇%増で、全世界の伸びの四〇%に達した。米国に次ぎ世界第二位のエネルギー消費国となった。
とりわけ石油、電力消費が伸び、石油消費では日本を抜き世界二位の消費国となり、世界の石油需要増の四一%を占める。一九九三年に石油輸入国に転じた中国は、ここ一、二年のうちに石油輸入依存度が五割に達する見込みで、当初予想より一〇年早いペース。
一方、日本をみると、産業用エネルギー需要がここ三〇年間、長期にわたり横ばいが続いている。製造業をはじめ産業界あげて、コスト削減のためエネルギー効率上昇を徹底的に追及した結果だ。日本では民生用エネルギー需要は豊かさを求めるライフスタイル、IT化の進展で緩やかに伸びているが、自動車の燃費効率上昇などもあり、毎年一〜二%の伸びにとどまっている。
中国の電力需要では産業用が七割を占めるが、産業用、民生用ともに極めて高い伸びか続いているのが特徴だ。とりわけ華東地域の場合、データが公表された浙江省の〇三年の伸びは、電力消費量二〇% 増、産業用エネルギー消費は約一五% 増、民生用エネルギーは約一一%増とそれぞれ二桁増である。
中国の実質GDPと消費電力量の推移(出典・ジェトロ資料)
中国の実質GDP と消費電力量の推移
 
  ● GDPを遙かに上回る消費電力の伸び続く 過剰から不足に急転換  
  中国の実質GDPの伸びは〇三年後半、〇四年と一〇%に近く過熱気味と言われるが、消費電力の伸び率は〇三年で約一五%増。GDPの伸びの一・五倍と、大きく上回るペースとなっている。中国の電力消費は九〇年代、一貫してGDPの伸びを下回り、九八年には実質GDPが八%伸びたのに対し、電力消費は前年比二%強の伸びにとどまっていた。
現在からわずか五、六年ほど前、中国では電力過剰が叫ばれ、鉄鋼、金属、アルミなど電力多消費型産業の育成が強調された。電力消費がGDPの伸びを大きく下回ったことから、電力設備の投資計画を下方修正する必要があるとの指摘さえあった。
ところが、九九年、電力消費は一転してGDPの伸びと同じ七%近くに達し、二〇〇〇年にはGDPの伸びを遥かに上回る一〇%を超える伸びとなった。〇三年には電力消費一五%増と、GDPの伸び七%の二倍の伸び率に達した。電力過剰傾向が続くとの予想に全く反し、早急な設備が必要になった。
電力消費量の基調が転換したのは、周知の通り鉄鋼など社会インフラ建設に不可欠な素材生産が急増しているのに加え、華東地域をはじめ、所得上昇でライフスタイルに転換が起こったためだ。都市家庭所得伸び率は、二〇〇〇年以降、実質一〇%を超える基調を維持し、全国都市平均の可処分所得は〇二年で、前年比一三・四%増。
電力消費に影響が大きいエアコン普及率は、「上海市で一〇年前、三件の家庭に一台だったのが昨年は平均一台を超えた」(関係筋)との指摘もある。実際、中国全国都市家庭のエアコン普及率は九九年から〇二年の三年間で、二五%から五一%へ二倍に急上昇している。現在、上海市で家庭のエアコンが稼動すると、最大電力は一気に三〇%以上急上昇すると報道(中新網)されている。
 
  ● 「エネルギーの太宗」、未だ定まらず 世界市場への影響極めて大きい  
  政府から昨年発表された「二〇〇四年〜二〇二〇年エネルギー中長期発展計画概要」によると、中国での「エネルギーの太宗」は明言されていない。「エネルギーの太宗」とは、各国のエネルギー源の中心となるものを指す。
中国政府のエネルギー専門家の予測では、二〇一〇年の一次エネルギー消費の需要として、石炭六〇%、石油二三%、天然ガス八%、水力・原子力九%などの数値が出され、石炭が過半数を占めている。しかし、石炭は全体での割合が今後減少すると予測されており、「エネルギーの太宗」は検討中と伝えられる。
日本の場合、石油を一次エネルギーの太宗として位置付ける一方、電力では原子力を基軸とする方針を確立、安定供給に全力をあげてきた。暖房用に灯油の需要が多いのも石油をエネルギーの太宗とした結果だ。中国では、今後、エネルギーの太宗として、何を位置づけていくのか、未だ明確な指針を確立しえないまま、エネルギー、電力需要急増に直面、対応に追われる結果となっている。昨年、みずほ経済講演会で榊原英資氏も「政府関係者と会ったが、エネルギー確保を一番心配しているという印象」と述べた。
中国が世界の石油需要増の四割を占めるに至ったため、原油価格の指針であるWTI先物は四〇ドル/バレル台を維持したまま推移している。「イラク戦争が終われば二〇ドル台に戻る」と予想されていたが、結局、中国をはじめ需要増が、原油価格の史上最高値更新など、高値安定を支えている。
かつて、ワールドウォッチ研究所のレスター・ブラウン氏は「地球白書」の中で「中国のエネルギー消費動向に世界市場が左右される日が来る」と指摘したが、その通りの展開になっている。
石油事情 2002年 都市家庭の一人当たり可処分所得 都市家庭100戸当たり電気製品・普及台数
 
  ● 日系進出企業、「チャイナ・プラスワン」戦略が主流に電力不足も要因  
  「電力に不安はないとの説明を信じていたが、実際は違っていた」(蘇州進出企業)との失望感を訴える日系企業関係者は少なくない。「発電、送電部門間で責任の押付けあいという印象で、真剣さが感じられない」との声もある。
華東地区の自動車部品工場・総経理によれば、「本社の会議で、中国の他に東南アジアで工場を確保しておくべきと、いつも主張している。中国工場七割、タイ工場三割という生産体制がベストだとの判断」につながっている。「タイ工場で中国工場の代替を常時準備しておくべき」という方針を採用する、日系自動車関連企業が増えている。
日系企業の中国工場では、二四時間稼動を前提として将来の経営計画を組んでいるケースが多く、電力不足による操業中断は、世界展開での中国工場の位置づけ変更につながりかねない。
 

 

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