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特集
  第一陣として東京三菱・みずほ欧米行に伍し対等の新市場開拓  
  中国銀行業監督管理委員会はデリバティブ(金融派生商品)市場を外国銀行に開放するが、その第一陣として六月一七日、みずほコーポレート銀行、東京三菱銀行、米シティグループ、さらに英スタンダード・チャータード銀行の日米欧主要四行を認可した。邦銀が半分を占めるのは、中日両国の長いかかわりから、また対中依存が増す日本経済の勢いなどを考慮したものと受け取れる。邦銀二行はともに準備万端で臨んできていただけに「公認ライセンス」に感慨ひとしお。今後のビジネス展開をにらみ、選にもれた他行との差異を強調する。  
  ● 進出日系企業に高い需要  
  銀行が顧客に提供するデリバティブ取引とは、総じていえば、銀行としてヘッジツールを提供し、顧客の為替リスク、金利リスクなど各種リスクの軽減を支援するのが主目的だ。
一定の為替レートをあらかじめ決めておき、将来の期日に売買する先物為替予約や、通貨、金利などを一定水準で売買する権利自体を売買することで、結果としてリスクの範囲や利回りを確定させる通貨・金利オプション、また金利・通貨スワップ、複合商品などの外貨建て金融商品を取り扱い、取引する。
日系企業は、加工型ビジネスから、家電や自動車などを中国国内で販売する内販型に移行しつつある。多くの企業がその売り上げを代金として受け取るのは事実上米ドルと連動する人民元であるため、売掛債権の増加といった一方の問題多発とともに、仕入れサイドが円払いやユーロ払いの場合、円・米ドルなどとの為替変動リスク回避ニーズが高まっていた。
中国政府はいまのところ、外貨建てデリバティブ商品のみの取り扱いを認めているが、近い将来人民元建て商品を認めるようになれば、国内金融為替市場での取引拡大は著しいものとなろう。
現状でも、外資系企業の進出増加に伴い、国内でのデリバティブ取引が活発化することは確実であるから、これまで財務リスクのヘッジを行わないできた顧客にとっては、リスクを管理しながら財務戦略を立てる積極策に転じることが可能になる。
 
  ● 選にもれると出遅れ確実  
  中国は世界貿易機関(WTO)加盟後、金融の自由化と近代化を段階的に進めている。人民元取引の認可や保険資金の株式市場での運用認可といった種々の市場開放策に加え、特に外銀に対しては地場行への資本参加を奨励するなど、外銀を通じ最新の金融技術や経営ノウハウの導入を急ぎたい姿勢が鮮明だ。
監会は先に三月一日付でデリバティブ管理弁法(規定)を施行。デリバティブを為替の先物予約や金利スワップ、オプションなどと定義したほか、同業務を行う場合は、外銀、地場銀ともに同弁法に基づきライセンス申請書を提出しなければならないと規定した。
中国ではこれまで、デリバティブ業務取り扱いに関する銀行側管理体制や取扱許容条件が明確化されず根拠法規が存在しないまま、個別認可などに基づき、一部のデリバティブ業務が認められてきていた。だが、その「猶予」が切れる九月一日以降、ライセンスを得ていない外銀、地場銀とも、取引が徐々に拡大する同業務を取り扱えなくなる。
 
  ● 競争の条件ほぼ横一線に
 
  一般的に、邦銀の海外業務は、中国に限らず、もっぱら現地進出した日系企業との取引が中心。米本土や香港で地場リテールバンキングに踏み切った一部行もあったが、まず異郷で、地場の企業や個人客相手のリテールに進出する余力は少なかったし、それに抗する制約も大きかった。
しかし、この中国の場合、話がやや異なる。市場がデリバティブのようなシステムの受容を含めてまだ整備途上にあるため、開拓余地が大きい割に、各行の競争条件がほぼ横一線の状態だからである。人民元業務の展開を見れば分かるとおりだ。バブルを乗り越えたものの、いまだ体力の回復過程にある邦銀にとって、中国は欧米系行との差がない対等な条件を提供しているとの見方は注目される。だからこそ、デリバティブ業務の導入に力が入るゆえんといえよう。
 
  ● ライセンス取得の二行まず人事・組織で対応  
  みずほコーポレート銀行と東京三菱銀行とも、投資銀行業務の拡大に連なるデリバティブ市場の開放を好感し、参入を目指して着々と先手を打っていた。とりわけ人事面、組織面での対応強化が目立つ。
みずほコーポは四月、在任が八年目に入っていた執行役員赤松清茂氏に代わって上海支店長に同審議役の花井健氏(四九歳)を起用。花井支店長は銀行生活の半分以上の間、為替金利ディーリング業務を経験、「東京外為市場のトップディーラー」として一時代を築いた。国際為替営業部長、営業第四部長などを経て、同月に最年少の執行役員の一人になっていた。また、これに先立ち、昨年四月には、東京、シンガポール、香港などアジアで一四年のディーリング経験を持つ善野吉博氏を配置、八月には中国業務経験が長く、本店で中国地場銀行を相手に取引を広げていた長浜康之氏を副支店長へ、そして今年三月、香港ディーリング室からベテランディーラー榎本隆弘氏、ロンドンからリスク管理のプロフェッショナルである岩永聡氏を投入して、体制を固めた。
一方、東京三菱は同じ上海で、就任二年目に入ったベテラン中国専門家の堀俊雄支店長(五一歳)のもと、七月、デリバティブのタスクフォースである中国商品開発室を新設した。トップの室長に香港支店からアジアに強い一線ディーラー和田龍善氏を迎え、石田真佐人・為替資金課長とともに世代の若さを強調した構えを敷いた。
 
  《みずほコーポレート銀行編》
支店長自身が花形ディーラーデリバティブの活用、積極営業に必須
 
 
   新任とはいえ自信みなぎる花井支店長

今回、邦銀二行が選ばれたのは実に画期的なこと。みずほコーポレート銀行上海支店の花井健支店長は、みずほファイナンシャルグループの前身である三行(旧第一勧業、富士、日本興行)による中国での経験の長さとビジネス規模の大きさなどの条件もさることながら、デリバティブ業務において総合的な体系があるかないかといった運営実績や方針、さらにリスク管理の厳格さや熟練度などが高く評価された結果と見る。
同行は昨年八月以降、中国金融当局の人民元業務開放の過程で、以前から話題となっていたライセンス化を含むデリバティブ市場の規範化がいよいよ実現されることを察知し、周到な準備の上、今年二月の時点で他行に先駆け、申請を一番に出した。「単純に本部書類を翻訳するだけでなく、中国人副支店長を主要メンバーとして参加させ、中国語の書類として筋が通るものを作成した」(長浜康之副支店長)という。
花井支店長は「目前に迫った今年九月一日まで、デリバティブ業務は個別商品の認可で販売できるが、それ以降はこのライセンスが得られなければ、これまで取り扱ってきた先物為替などの主要商品が販売できなくなる。これは、ビジネス上大変大きな差になる」と語り、顧客サービスの維持あるいは向上の面から言ってもライセンス取得は絶対のものと言い切る。
 
  ● 規制緩和の流れ、過去に経験  
 
上海支店としての長い取り組みを語る長浜副支店長
みずほコーポは昨年八月一日付で上海における三行の業務統合を果たした。花井支店長は「本店は、デリバティブ業務認可への過程をにらみ、認可をてこに中国での事業拡大を図るため、インベストメントバンク業務と市場業務経験を併せ持つタイプの支店長を送り込んだ」と、自らの役割課題を表現してみせた。
支店長自身、為替ディーラーの経験が長いことは確かだが、商社・石油・エネルギーやゼネコンなどの大企業を相手にした法人営業経験も豊富。中国勤務経験がない面は認めるが、日本が八〇年代に円の国際化に向けた規制緩和の環境整備を進めていた際、金融当局に協力するなど、為替自由化、規制緩和の流れを身をもって体験した過去を振り返る。
「これまでの経験がそのまま当てはまるというものではないものの、金融業界を取り巻く環境の変化を肌で感じた経験が、いまの中国にも十分通じる部分がある」と指摘しながら、「デリバティブなどをうまく運営していくこと、市場の声を当局へ提言していくことで、この国の金融市場の発展に協力していきたい」と強調する。
 
  ● いまだからこそ先手必勝  
 
みずほコーポレート銀行上海支店自慢のディーリングルーム

中国でのコーポレートファイナンスは、貿易金融や外為関係でのサービス提供はもちろん、現地での資金調達や運用、売掛債権回収の協力などに至るまで、進出企業になり代わって財務を運営するぐらいのコンタクト力が必要とされる。また、複雑な金融情報を軸とした情報収集とその分析は、駐在する銀行マンに必須のもので、当局の政策の方向性を探りつつ顧客に伝えることはもちろん、逆に顧客自身がなにに悩んでいるか、なにをしたいか、しっかりとニーズを把握しておくことも基本となる。
それと同時に、個別の顧客がばらばらに対応していた業務を束ね、まとめて運用していくような能動的なサービスも求められる。
なにもしないというリスクもあることを認識した上で、先手を打ち、すばやく対応し、相応のステータスを得ていくリスクテイクも必要」。花井支店長は、現地で営業を営む銀行として、積極的、果敢な行動こそが、顧客に即した金融サービスにつながると確信している。
 
  《東京三菱銀行編》
「中国通」集まる組織力誇示ディーリング人材、リスク管理に自信
 
  ● 中国シフト、日本の営業網連動  
 
  「中国経験」を熱っぽく語る堀支店長

東京三菱銀行は七月、上海支店に前記デリバティブ取引対応の中国商品開発室を開設したほか、日本の法人取引拠点一一五支社すべてに中小企業の中国進出を専門に支援する「中国デスク」を設置した。同時に、本店には「中国室」を新設し、中国ビジネスを一挙に強化する。
中国部門で他の銀行に遅れを取れば、日本国内での取引にも影響しかねないと見ているためだが、これに似た動きは東京三菱、またみずほコーポの例に限らない。各行から、北京や上海だけでなく、蘇州、杭州、無錫といった華東地区のほか、広州など日系企業の工場立地が進む地域への出店申請が相次いでいるからだ。
そのなかでのデリバティブ取引の本格的なスタートだ。東京三菱が一頭抜きんでたポジションにつけたことは間違いない。
中国商品開発室の和田初代室長は八月一日に着任したばかり。「行内にはもともと二〇人を超える人員を要するアジア・デリバティブチームがあり、シンガポール、香港、そして上海を同時に見ることのできる態勢が備わっている」と語り、準備は着々と進めていたものと語る。
 
  ● 管理強くとも規制緩和好感  
 
    エースディーラーの和田室長

「外資の呼び込みで二〇年余り。いま中国は『普通の国』になろうとしている」。東京三菱の堀俊雄上海支店長は市場開放が続く現状に満足げだ。一貫して「外銀は奨励業種でなく制限業種」とされながらも、根拠法未整備な中、さまざまな取引を個別に認可する対応をとってきた中国政府が、このところ急激に政策を変化し、コントロールを強める一方、確実に各種規定を整備し、規制緩和/開放と規制強化を同時並行的に進める状況にあるからである。
    北京での語学留学歴もある石田課長
規制緩和と並行しての管理強化は新業務のデリバティブについてもいえ、従来基本的になんでもできた取引が九月一日以降、外為業務に絡む商品については制限が強くなる。また邦銀二行を含めた四行のみにディーリングが認められることは、翻って「一転して完全な制限に変わったとも言える事実です」と補足する。
これに関連して、ライセンス交付の評価の対象は、やはりリスク管理能力であったことも打ち明けた。
堀支店長は東京外大中国語科から旧東京銀行に入行。一九八〇年、国際投資部時代に初めて北京出張して以来、中国では深、大連、北京、そして上海と営業拠点経験が四ヵ所に上る。トータルでの駐在歴は一三年目に入った。「現役の支店長クラスで、これだけ長い中国経験者は皆無」とか。
その長い経験のなかで迎えたデリバティブ。「取引結果をバランスシートに記載しきれないような新しい取引も始まっており、これらを横目で見ながら、中国の地場銀行も参入を企てている」という。
 
  ● 説明会開催、顧客も高い関心  
 
「丁々発止」などなく、静かな雰囲気のなか、パソコンによる取引が進められる東京三菱銀行上海支店のディーリングルーム

ちなみに、石田課長は日本人で初めての外貨交易中心から公式な免許を取得した人民元ディーラーである。免許は個人に対して交付されることから、東京三菱にとって、たいへん貴重な存在だ。人材育成の成果ともいえよう。
「基本的に他三行とも取り扱う商品は同じ。だからこそ、こういうエース級のディーリング人材をどれほどそろえているか、組織としてデリバティブをどう位置づけているかが問われる」。堀支店長はきっぱりと言い切った。
七月一六日に行われた顧客向けのデリバティブ説明会では、来場した企業代表のうち二〇〇社余りから強い関心が寄せられたという。
 
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