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巻頭インタビュー
「コミュニケーション」が ITを変える
猪瀬崇氏
NTTコミュニケーションズ中国総代表
NTTコミュニケーションズ(中国) 董事長兼総経理

 
  「IT」から「ICT」へ──。NTTコミュニケーションズは従来のITにコミュニケーションの“C”を加えたビジネスモデルを中国に持ち込む。例年の上海フォーラムを前倒しして開催する理由も、中国市場が今まさにその時期を迎えているとの判断からだ。いち早く取り組んできたセキュリティも市場が追いついてきた。NTTコミュニケーションズが追求する「コミュニケーション」とは何なのか。  
 
プロフィール:
1955年生まれ。山梨大学で土木工学を専攻。77年、日本電信電話公社に入社。全国通信トンネル化計画に従事する。ICカードビジネス推進室長として、ICカード関連ビジネスの総責任者を務め、04年10月のNTTコミュニケーションズ(中国)設立にともない董事長兼総経理に就任。NTTコミュニケーションズ北京/上海事務所の中国総代表兼任で、05年4月より上海に駐在。趣味はゴルフ、街歩き
 
  ● 今年も上海でイベントを開催されますね。今回はどういった内容になるのでしょうか。  
 
昨年は東京、名古屋、大阪の三都市にプラスして上海で開催しました。上海フォーラムは日本の進出企業を中心にNTTコミュニケーションズの取組みを紹介するという形でしたが、今回はロンドン、ニューヨークですでに開催しているグローバルセミナーとも連携して行なう予定です。
昨年は一二月に開催しましたが、今年は九月となります。弊社では昨年就任した社長の下で「IT」から「ICT(インフォメーション&コミュニケーション・テクノロジー)」への移行を推進してきました。「ITソリューションプロバイダー」ではなく、「ICTソリューションパートナー」という言い方をしておりますが、その動きが具体化してきたタイミングで、中国でもしっかりと展開していきたいというのが今回のメッセージです。一二月だと遅い。中国でも今まさにその時期を迎えているので、企業様が来年の展開を検討されるこの秋に早く出したいなと。
「ICT」という言葉自体は、二〜三年ほど前から言われてきたことで決して新しいものではありません。ただ、市場がそういう土俵になってきた、というのを訴求していきたいと思っています。
 
  ● 中国でも「ICT」が動き始めている、と。
 
  中国のインターネット利用者は一億人を超え、世界第二位のボリュームになっています。傾向としては、最初からIP電話や画像転送を嗜好されている流れがある。そうなると、インフォメーションとテクノロジーだけではなくて、「コミュニケーション」がキーワードになってきます。特に、中国の方はショートメッセージを例にとっても、コミュニケーションが大好きですよね。そういうもの、つまりICTインフラがあるのを前提に新しいビジネスモデルを創出する動きが出てきた。
例えば、フォーカスメディアの液晶モニタ広告がものすごく普及していますよね。あれもひとつのコミュニケーションを広めるための単純な手段なわけで、新しいビジネスモデルの成功例といえるでしょう。
我々は進出する日本企業を中心にサポートしていますが、この成長する中国市場、特に「いきなり」新しいものが導入される市場で、日本企業はもちろんのこと、他の外資企業、さらに中国企業の新しいビジネスモデル創出をお手伝いしていきたいですね。
 
  多忙なICTマネジャーのベストパートナーを目指します  
  ●具体的にどのように取り組んでいかれるのでしょうか。
 
  ただ「ICT」と言っても仕方ないので、ITマネジャーの方に少しでも楽をしてもらうサービスというのがひとつの軸になります。これから、我々はITマネジャーと呼ばずにICTマネジャーと呼んでいこうとしています。
ICTマネジャーの方は普段から広報や総務と兼任で大変だとか、工場では「実は私はITマネジャーではなくて、ただパソコンに詳しいのでやっているだけです」と言う方がけっこう多いんですよね。とにかく忙しすぎて、あれこれ手が回らない。専門の担当者を日本から連れて来るのも難しいし、かといって中国の方を雇っても人材がまだ育っていない。力がついたら辞めてしまうという悩みもあります。
そこで我々としては、ひとつの例ですけど、工場や事務所を立ち上げるときに引越しの段取りや回線をつなぐお手伝いなどを一貫してお引き受けします。こうしたアウトソーシングサービスは各企業さんがやっておられます。その中で、我々のサービスの付加価値は何なのかというと、引越しを始めるときまず回線をはずしますよね。そして、什器やパソコンを置いて最後に回線をセット・確認して終了となる。引越しの最初から最後までをお手伝いできるのが私たちというわけです。
今度は引越しした後、サーバーが落ちたとか、パソコンのトラブルが発生します。本来であればICTマネジャーの方が見ていないといけないのですが、そうもしていられませんよね。お酒も飲みに行かないといけませんし(笑)。そこで、カスタマーサービスセンターを作って二四時間監視し、異常があったときにご連絡をする。でも、飲んでいる最中に電話をもらっても困るだろうというので、代わりに現地にかけつける手配もこちらで承ります。
その他ですと、ICTマネジャーの方が定期的に総経理に提出しなければならないレポートや、新しいビジネスモデルを検討する際に不可欠となるICTインフラの構築についてのレポートを作成します。ICTソリューションパートナーとしていろいろな形でワンストップサービスを提供できるはずです。
 
   ICTに欠かせないセキュリティ
御社が特に力を入れているひとつにセキュリティがあると思います。
 
  ネットワークを使って「コミュニケーション」をするときに何が問題になるかというと、相手を確認し合うこと、勝手にネットワークに入られては困るということです。セキュリティをしっかりやらないと、コミュニケーションの明るい部分とは逆に暗い部分がでてきてしまう。セキュリティは「ICT」とセットになって、より重要性を増してきます。
また、ICTマネジャーの方が社内のセキュリティにまで目を届かせようとすると、仕事の範囲はさらに広がって、 大変な負担になってしまいます。社内のセキュリティをうまく運営していく上でも、やはりキーとなるのはICTマネジャーの方です。
セキュリティはベンダーさん一社がひとつのやり方でやるという時代ではないと思うんですよね。ICTマネジャーの方や会社に合わせていろんな組み合わせをベストチョイスできる形の方がいい。今回のセミナーでも「ICT」を柱に据えながら、その中でもセキュリティに早くから積極的に取り組んできたことをアピールしたいと思います。
 
  セキュリティを入れる目的をきちんと説明すれば、中国人は素直に受け入れてくれると思う  
  ● 中国でセキュリティ意識は高まっているのでしょうか。
 
  私が独資でNTTコム(中国)を設立しようと考えて役員会にかけたのが二年前のちょうど今頃でした。ネットワークは当然やってきたわけで、中国で我々の強みを生かした新たな展開とは何があるのか。そこで違った切り口でICカードやセキュリティをやってみようと。もともと硬い会社なんですけど(笑)、珍しく「行ってこい」となりました。
ただ、当時はセキュリティの提案に行っても、「うーん、わかる。おっしゃる通り」と言われるんですよ。でも「やっぱりお金がかかるし、中国はまだ早いよ。こっちは一品一品価格競争で大変なんだ」となる。せめてウィルス対策だけでもやっておくか、という感覚でした。
それが昨年の今頃ぐらいから、検討し始める企業様が増えてきた。今では大手を見れば、何らかの形でセキュリティを取り入れているところがほとんどではないでしょうか。逆に、我々の取り組みを急がなければいけない状況にあります。
 
  ●日本では社内管理の強化に対して社員から反発も出ていますよね。
 
  セキュリティというのは、プライバシー問題と紙一重ですから、会社としての目標と働く社員との間で共通認識と信頼関係をいかに持つかということが重要です。日本の場合、そのあたりが曖昧な状況で個人情報保護法ができてしまったところがあります。極端な話、お客様の名刺を名刺入れから束で落としたら法に触れるとか。プライバシー問題は非常に敏感だったんですね。
社内にセキュリティ機能を入れる場合、その機能が社員に理解されて、社内ルールが整備されて、運用できる仕組みができているか。それができていなければ、いくら機能を入れてもまったく意味がないばかりか、社内がギスギスしてしまう。弊社では「人」「プロセス」「テクノロジー」の三位一体をセキュリティ対策の基本的な考え方としています。
 
  ● 中国ならではの難しさ、例えば、管理 強化に対して「中国人だから信用してい ないのか」という批判が出る可能性も否 定できないかと思いますが。
 
 
  「実際にコミュニケーションしながら、新たなビジネスを作っていきたい」。幹事をすることも趣味という猪瀬氏。上海・北京を中心に中国全土を飛び回る多忙な日々の中で「飛人の会」や「董事長総経理の会」も企画しているという
中国は日本やアメリカなど他の国と比べて非常に速いスピードで成長していま す。先ほどの三位一体の中でも、まだ「人」と「プロセス」というのが育っていません。その中で「テクノロジー」だけがどんどん入ってくると随分いびつな形になってしまいます。さらに、中国でセキュリティといっても国家上のセキュリティや許可の問題もあるわけです。日本や世界で使っているからといって、中国でそのまま使えるかというと、そうではない。
やはり基本的に皆さんの悩みは「人」の問題です。人のパソコンを使用するときの気持ち、リテラシーの問題、また文化の違いもあるでしょう。中国人だからとか、そういう見方をしてフェアじゃないやり方をすると当然問題は出てきます。
こちらで「テクノロジーを入れなくていいから、人海戦術で何とかなりませんか」とよく言われるんですよ。決してやれないことはない。けれども、人が関与する とどうしてもフェアさが削がれてしまいますよね。フェアさを追求すれば、やはり「テクノロジー」ということになる。また、こういうことをしてはダメだとか、決まりを社内でオープンにするための「プロセス」も重要になります。
今ちょうど、ある会社の現地社員向けにセキュリティ勉強会のメニューを作成しているのですが、重要なのはセキュリティが個人にも影響を与えるというのをしっかり教えていくことです。例えば、「キャリアアップのときにセキュリティ意識が高いと有利になります」とか、「仕事中にチャットで遊ぶと減給や罰則の対象になります」と教えればずいぶん意識は変わってくるはずです。
 
  双方向の人材強化で組織活性化へ
先般、通信サービスの強化と増員計 画が報道されました。
 
  グループの人員は昨年末時点で約三三〇人となっていますが、これを来年にかけて一〇〇人増強する計画です。同時に、中国全土に拠点も増やしていきます。今後は「中国全土」がキーワードになる。上海など沿岸部だけじゃなく、この広い国で所得層や嗜好が異なる市場をどう攻略していくのかということ。我々としては、全部の拠点に同じ機能を持たせても仕方ないですから、各拠点のネット ワークをうまく使わなければいけません。
そのひとつとして、通信システムの監視・保守を行なうカスタマーサービスセンターを大連と広州に立ち上げます。センターでは運用・保守を担当する部隊と、システムインテグレーションを担当するSE部隊を配置して、ICTの基盤となるような拠点にしていきたい。
また、お客様が問い合わせるときのグループ全体の共通窓口をNTTコム(中国)の中に設けます。現在、グレーターチャイナにグループ会社が計六社あるのですが、お客様からすればどこに頼んだらいいのかわからない、と。そこでシングルポイント・オブ・コンタクト、つまり営業のまとめ役をつくり、依頼内容に応じてグループ会社やパートナーに振り分けていくというやり方を実践していきます。
 
  ●今後の事業展開や組織強化において 何がポイントになるとお考えですか。
 
  やはり、中国では中国のやり方でやるということではないでしょうか。ローカリゼーションとグローバリゼーションを併せて「グローカリゼーション」なんて言い方もしますけど、通信はローカリゼーションがあって、グローバリゼーションがうまくいく。現地法人のミッションというのは、いわゆる中国に相応しい形でのローカリゼーションを進めていくことです。
増員のメンバーも基本的には現地の人材となります。中国人のメンバーを日本へ研修に派遣していくと同時に、日本のメンバーをこちらに連れてくることも考えています。日本の通信市場はシュリンク(縮小)しているじゃないですか。だから、出張で中国に来れば魅力的に感じる。それは中国市場が直感的に動いているからですよね。特に日本の若いメンバーにはこちらに来て、幅広く勉強してもらいたい。中国ではクリエイティブに物事を考える人たちがたくさんいるし、その人たちと一緒にやることによって、ビジネスの触覚が磨かれます。
ネットワークに発信と着信の双方向という特性があるように、中国と日本の双方向で人材を鍛え合って組織を活性化させていきたいですね。
(取材・編集部)