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巻頭インタビュー
無錫尚徳太陽能電力有限公司CEO 施正栄 博士
  アカデミズム界からの華麗な転身 民間企業初、設立4年で 「ニューヨーク」上場
長者番付もトップにランクイン、一躍時の人に。
 
 
プロフィール:
江蘇省揚中出身。88年に渡豪、ニューサウスウェールズ大学で太陽エネルギー分野の権威、マーティン・グリーン博士に師事。91年に博士号取得。以後、同大学内の研究センターでチーフ研究員を務めるかたわら、執行董事として企業経営にも参画。2001年1月に帰国。02年9月、無錫尚梠セ陽能電力有限公司を設立しCEOに赴任、同社を「アジア100強」(05年5月、米雑誌『Red Herring』)、太陽電池の分野で世界6位(1位シャープ)に育て上げ、05年12月15日(アメリカ時間)、中国の民間企業として初めてニューヨーク証券取引所に上場する。なお、施博士は、2006年年頭時点で「中国長者番付」のトップ。太陽エネルギー関連で彼が有する特許は10数に及ぶとも。
 
  ● 「中国最富家」の海亀学者  
 
無錫施正栄博士と同社の研究員たち
海亀派学者が立ち上げたハイテク企業が、設立から四年が経った、二〇〇五年一二月一五日(アメリカ時間)、ついにニューヨーク証券取引所への上場を果たした。  
この話題の中心人物が無錫尚徳太陽能電力有限公司(Suntech)のCEO、施正栄博士である。上場初日、初値一五ドルだった同社の株価は最高値で二一・二米ドルを記録した。半月経った一二月三一日の終値は二七・二五ドル。六万八〇〇〇株を保有する施博士の総資産はその時点で一四九億人民元と推定された。二〇〇六年度の中国富豪ランキング・トップの最有力候補との呼び声が高い。(一月一○日時点で総資産は一六一億元となり、○五年一位の黄光裕氏を超えた。)  
施博士は国内の大学で精密機械を専攻し修士号を取得、その後、八八年にオーストラリアに渡った。ニューサウスウェールズ大学に在籍し、太陽エネルギー分野の世界的権威であるマーティン・グリーン博士(二〇〇二年ノーベル賞環境特別受賞者)に師事し、太陽電池の研究に携わった。  
オーストラリア国籍を取得した彼に再び祖国の地を踏む決心をさせたのは何だったのか?それは運命の悪戯といえるかも知れない。いまの威風堂々とした話しぶりには微塵の隙さえない。しかし、施博士は、「よくあんな向こう見ずな行動がとれたものだと空恐ろしい気分になる」と当時を回想する。
ニューヨーク上場を決めた瞬間。中国の民間企業としては初めての快挙だ
写真提供:無錫尚徳太陽能力有限公司
施博士にとって人生飛躍の「時機(とき)」は、偶然転がってくる。かねてから太陽エネルギーの潜在市場に注目していた人物に無錫市風険投資公司投資部経理(当時)の張維国氏がいた。彼は施博士を探し出すや企業設立プランについて協議する。張氏が企業設立に向けて奔走した結果、無錫小天鵝集団、山禾製薬、無錫高新技術風険投資有限公司など著名企業八社が参加、六〇〇米ドルを調達した。そこへ施博士は四〇万米ドルの現金と、(一〇項目に及ぶ太陽エネルギー関連の技術特許を背景とした)「時価総額一六〇万ドル相当」の技術資本で株主メンバーに加わったのだった。  
施博士は総裁、張氏は副総裁に就く。その後の無錫尚徳の躍進ぶりは凄まじい。二〇〇二年八月に開設された第一号の生産ラインは一〇兆ワット。それが〇四年には六〇兆ワット、〇五年には一二〇兆ワットに拡大する。三年で一二倍という伸張幅である。  
では、売上高はどうか。二〇〇二年に三〇〇万ドル、〇四年八五三〇万ドル、実に三年間で四三〇%という伸び率である。本拠地の無錫の他に、洛陽にも三〇兆ワットの生産ラインを〇五年年末に開設した。今年七月より正式に操業を始める予定だ。  
今夏には上海オフィスを開設するほか、数年後をめどに「日本進出も検討したい」(施博士)と意欲も見せる。業績拡大の勢いは今後も減速することを知らない。  
しかし、華やかな業績伸張の話題は施博士にとって最優先の事業テーマではなかった。彼は言う。  
「太陽エネルギー産業とは、単なる製品製造ではなく、いわば社会事業としての意味も持つ。中国はエネルギー消費大国であると同時にエネルギーを輸入に依存する国である。数々の再生エネルギーの開発と利用によって環境汚染を克服し、人民の生活レベル向上に貢献することこそ意義がある――」
 
  ● 民間第一号でニューヨーク上場の快挙
 
 
ところで、同社は当初シンガポール上場を意図していた時期があたという。  
その後、香港に目標を変更。さらに他のベンチャー企業(特にIT)の先例にならってナスダック上場への道を検討し始める。しかし、最後に無錫尚徳が選んだ上場先は「ニューヨーク」だった。同証券市場からの熱烈な勧誘活動が背景にあったことも大きな理由だという。  
無錫尚徳の法律顧問で、今回の上場劇にあたって全面的なサポートを行った国浩律集団事務所の王衛東パートナー弁護士は、同社の「ニューヨーク」上場について次のようなコメントを寄せている。  
「世界最大規模のマーケットに、国有企業ではなく民間企業が上場した点で(今回の上場は)意義が深いことだ。資本力といい運営面といい、中国の民間企業は確実に力をつけてきている。厳しい国際証券市場での検証にも耐えられるだけの合法性をアピールできることは、すなわち中国の法体系自体の整備が背景としてある」
現在、多くの中国企業が国際資本マーケットへと進出をねらう。  
昨年はとりわけ、IT業界など新進気鋭の注目企業による「ナスダック」上場が注目を浴びたが、香港、シンガポール、ロンドン、日本、トロント、フランクフルト等々、他マーケットへの上場事例もまたすでに相当数存在している。しかし、「融資調達能力があり、規範に則ったマーケットであればあるほど、中国の民間企業は上場先に選ぼうとする。反対に規模が小さく規範を持たないマーケットは(上場の)視野の外に置かれる」(王弁護士)
無錫市副市長・談学明 氏
では、「東京」上場への中国民間企業の動きはどうか?  
王弁護士は言及する。  
「現在、東京証券取引所に上場する中国企業の例は稀有だ。新華網絡がマザーズに上場したことが話題になったが、一般的には日本マーケットに上場する海外企業は数から見ても限られているのでは?」  
たとえ世界第二のマーケットと評価されても、投資項目や投資背景に対して制限もあり、世界第二という規模を誇るマーケットの外面と内面は実にアンバランスではないか、というのが王弁護士の考えである。  
 
  ● 「天の時、地の利」そして・・・
 
 
無錫尚徳は、2005年世界6位にランキングイン。大きな潜在市場を背景にさらなる躍進が予想される
ところで、施博士は当初、企業の本拠地として大連や上海など他都市も候補に入れていた。最終的に彼自身が江蘇省(揚中市)の出身であったため、自身の事業を故郷の発展のために役立てることを決意する。  
もちろん、施博士に対して無錫市政府が注ぐサポートと情熱にも並々ならぬものがあった。  
施博士という逸材になんとか無錫で活躍してもらおうと、無錫市も張氏(前述)も真剣そのものだった。無錫市委員会書記、新区、科学委員会、経済委員会の政府の官吏までが施博士の慰留に動員された。無錫尚徳の成功をもたらしたのは「天の時、地の利」、そしてやはり「人の和」にあったといえる。
無錫市副市長の談学明氏は、「無錫は上海を龍頭とし、人材が輩出し集結するエリア。発展のカギを握るのはやはり人。企業人の内面の素質や素養こそが企業の成功の可否を決定する。尚徳公司の現在の成功は当初の想像を超えているが、民営企業の代表的な発展事例として尊びたい」  
無錫政府が良好な「創業」環境を施博士に与えれば、無錫市もまた(地域発展に向けた)チャンスを見事につかんだといえる。長江デルタの豊富な人才、肥沃な土壌、清純な空気と水は、無錫尚徳の最短時間での発展を可能にさせた。
現在、中国政府が注力する環境保護、省エネについて、施博士は明るい展望を持っている。自国通貨の切り上げ、大気汚染など深刻な公害問題におかれた現在の中国を、七〇年代の日本と共通点があるとしながらも、「日本が三〇年かかけて達したレベルにキャッチアップするのに三〇年も要することは決してない」と断言する。  
五年後、中国は再びエネルギーの輸出国へと転じていると施博士は言う。これまで海外輸出が主流だった同社の業容は、国内市場の発展空間を背景としての時を迎えようとしている。技術レベルの向上や知財の保護、そして同社のバックボーンをなしていた施博士の「技術」を誰が引き継ぐのか。後続育成に向けた取り組みも本格化しなければならない時期に差し掛かっているといえよう。  
奇しくも第十一次五カ年計画の総仕上げの年となる二〇一〇年は、上海万博開催の年にあたる。万博のテーマは「都市」。「節約型社会」の建設、環境保護の促進に向けて走り出した中国社会の成果報告に、同社もきっと名前を連ねるに違いない。クリーンエネルギーによる公害解決、環境保護において時間的猶予は許されない。施博士のそんな想いが執務室に掲げる一枚の書からズシリと胸に伝わってくる。  
「時間こそ競争力」――。 (取材 編集部)
 
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