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   日系企業における
                  ------人材マネジメント上の最大の課題 (下)
                  マーサー・コンサルティング  美世諮詢(上海)有限公司 コンサルタント 柏倉大泰
 
  柏倉大泰柏倉大泰(Tomohiro Kashiwakura)
マーサー・コンサルティング・美世諮詢(上海)有限公司 グローバル人事戦略コンサルティングチーム、中国・香港・台湾地区担当コンサルタント
組織・人事系で規模・拠点数ともに世界最大のマーサー・コンサルティングの上海オフィスを拠点に、日系企業のグローバル人事戦略に関するコンサルティングに多数従事。

Tel:86-21-6335-3789(Ext.151)
Fax:86-21-6361-6533
E-mail:tomohiro.kashiwakura@mercer.com
 
前回、匠を重視する日系企業においても、経営幹部候補となる中国の優秀な人材に早期にキャリアを提示することが傘型企業に求められる重要な機能であることを述べた。今回は中国の経営幹部育成のために傘型企業に求められる具体的な仕掛けとして、グレード制度・評価制度・報酬福利厚生制度の3つについて議論を進める。
  グレード制度  
  グレード制度とは、社員をグループ分けし、評価や報酬、育成などの枢軸として運用される人材マネジメントの要である。経営幹部を育成する上で傘型企業がグレード制度に求めるべき要件は
・拠点間の統一的な運営ができるように役割を基準として設定されている
・現在および将来の経営幹部のキャリアパスの指針となることである。
欧米系企業では、意匠の一貫性を保つようトップダウンで定義された「役割」に基づいてグレードが設計されているため、担当者が変更してもポジションごとのグレードは変更 されない。端的に言えば、人に関わらずポジションごとにグレードと報酬が決まっている。例えば役割を基準 としたグレードとは、「年度予算を達成するために、事業計画方針に基づいて部門を統括し売上予算を達成さ せる」など、役割ごとに求められる責任や成果の基準により定義されている。
一方、日系企業では匠の芸が最大限発揮されるようにボトムアップで現状の「人」に基づいてグレードが設計されているため、担当者が変ればポジションごとのグレードも変更されてしまう。端的に言えば、ポジションに関わらず人ごとにグレードと報酬が決まっている。例えば人を基準としたグレードとは、「会社全体の方針と目標を理解した上で全体的な視点から他工程・他部門と調整し協調することができる」など、人に求められる態度や能力の記述により定義されている。
いずれを基準としたグレードも一長一短である。しかしながら世界規模で展開される事業の拠点間の整合性と優秀な人材の異動や抜擢が必須な環境においては、役割基準のグレードに軍配があがるのではないか。
人を基準としたグレード、いわゆる職能資格制度を否定するつもりは毛頭ない。重要なのは役割か人かの十把一絡の議論ではなく「組み合わせ」なのである。つまり、拠点間の異動や事業全体の意匠の一貫性が求められる経営幹部層には役割基準のグレードが望ましく、高い専門性や熟練度など匠の技が要求される現場層には人を基準としたグレードが望ましいといえる。
拠点間で共通の基準で測定された役割の大きさに基づいて「役割グレード」を設計することが、中国の優秀な人材を経営幹部へと育成するための最初の足がかりとなる。この仕掛けを用いて魅力的なキャリアを現地の優秀な人材に提示し早期にキャリアの螺旋に乗せることが肝要である(どんな親日家でも六合目までしかのぼれない富士山には登りたがらないと思う)。
稲妻型の育成をする欧米系の傘型企業では、役割グレードに応じ雇用体系を各拠点雇用から傘型雇用や地域雇用へ、さらには本社雇用へと変更し優秀な人材を囲い込み、将来の経営幹部となる優秀な人材にキャリアパスを提示する動きも見られる。
たとえば図1のように、グレード制度が異なるA・B拠点において、一部の経営幹部のみを対象に拠点間で異動するGlobalM1を傘型採用に、さらに実績を上げた人材はグローバルに異動するGlobalM2として本社雇用とするような方法である。図1
「面子」を重んじる中国でなくともこの役割グレードの座布団は人をやる気にさせる。しかし、この座布団にあぐらをかかれてしまうのも問題である。役割グレードを設定したあとにも、役割グレードの名に恥じぬように経営幹部ならびに候補者の姿勢を正しく維持させるためには、座布団にすわる人材の担当している役割だけではなく「能力」および「成果」も定期的に評価し「新鮮」に保つことが肝要とある。そこで次に評価制度へと話を進めたい。
 
  評価制度  
 
評価制度において傘型企業が実現すべき要件は
・能力の評価により、企業の価値観に合致する人材の選抜・育成ができる
・成果の評価により、事業の意匠に合わせ目標の伝達と実績の把握ができることである。
まずは能力評価について取り上げたい。優秀な人材の考え方や行動の足並みが揃っていることは意匠を実 現する上では極めて重要である。そのための仕掛けとして企業独自の価値観に基づいた行動や成果を上げるための特性を整理した「コンピテンシー」という考え方が経営幹部の能力評価には広く活用されている。企業独自の価値観とは、創業者や中興の祖が作り上げた語録や理念、社是などである。例えば前回も取り上げたトヨタではコンピテンシーの1つとして「ねばり強さ」
・困難な局面に際しても、自ら先頭に立ち、最後までやり抜く意思を 示している
・ねばり強く周囲を説得・調整し、障害を乗り越えている
を設定しており、「カイゼン」が強みのトヨタの価値観を良く表している。
成果の評価としてはBSC(バランス・スコア・カード)という考え方を取り上げたい。BSCとは利益やキャッシュといった単一的な財務の指標だけでは複数の事業や拠点をまたいだ成果の評価が難しいため、将来的な利益につながる人材の視点や顧客や業務の視点など業績を多面的に管理する考え方である。評価に際し、例えば図2のように新規の事業は基盤構築を注視し業務の視点に五〇%の重みを置き、成熟事業は利益の収穫に注視し財務の視点に五〇%の重みを置くなど、事業の特性や目標によって評価の重みを変えていく。
こうした仕掛けにより、傘型企業には複数の事業をまたぎ一歩引いたところからの全体的な視点による能力と成果の評価が求められる。
図2
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  報酬福利厚生制度  
  残る仕掛けは、報酬福利厚生制度である。報酬福利厚生制度に傘型企業がもとめるべき要件は、
・地域ごとの市場競争力に基づき競争力のある報酬水準を維持する
・事業や拠点をまたいで役割に基づき公平な処遇をする
ことである。
報酬制度では、報酬により外から社員を動機付けるためではなく、社員の内側から動機を高めるために個人が担う役割と成果を会社が認めた証のメッセージとして報酬を出すという考え方が最も重要である(卑近な例で大変恐縮だが、パチンコは、打った玉の結果が即時にフィードバックされ、絶妙に確率設定された当たりの爽快なフィーバ感があることから人をひきつけるとパチンコ業界に勤める友人から聞いたことがある)。
そのため、優秀な人材が「認められる」という実感がもてるように、傘型企業が各地域における報酬の競争力を全体的に調整し、各拠点が役割と成果に見合った適正な報酬を個人に定期的にフィードバックすることが優秀な人材を引留める上では不可欠といえる。
また中国においては全員の報酬が筒抜けになっているため、異動のある経営幹部では拠点間での報酬の内部公平性も重要な視点となる。その仕掛けとして経営幹部育成に向けた異動時の生活手当てやハードシップ手当、住宅手当などを傘型企業が「異動パッケージ」として規定する方法がある。たとえば経理クラスが北京から瀋陽に異動した場合には、住宅手当をRMB三〇〇〇、ハードシップ手当と異動手当としてともに基本給の一〇%、というように事前に設定しておくことで、経営幹部の異動時の個別交渉の手間や不平不満を予防することができる。
このように中国の優秀な人材を経営幹部へと育成するために、役割を基準としたグレード制度・評価制度・ 報酬制度の3つの制度を拠点間で一貫して運用する上で傘型企業に求められる責任は大きい。
 
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