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「ケーススタディ〜実用新案権を巡る問題点〜」
 
黒田法律事務所 吉村 誠 弁護士
中国において、実用新案権は無審査で登録できるため、中国企業等が、何十年も昔から存在する周知の技術について実用新案登録出願を行い登録された後に、日系の独資企業に対して権利行使をしてくる事例が現実に存在する。この場合、当該独資企業はどのように対応するべきか。

黒田法律事務所
吉村 誠 弁護士
■略歴■
京都大学工学部建築学科
最高裁判所司法研修所
日本弁護士連合会登録・東京弁護士会登録 (52期)
 
  1 実用新案権で権利行使されるリスク  
  冒頭で紹介した事例は、嘘のような話であるが、現に起こった事件であって、今後も同様の事件が生じる可能性はある。  
このような紛争が生じる理由としては、中国において実用新案権は無審査で登録されるという点に起因していることは確かであるが、それだけではない。  
日本においても実用新案権は、中国と同様に無審査で登録されるが、権利者が何十年も昔の技術を登録して権利行使するということは極めて起こりにくい。日本においては、実用新案権法上、権利者は、特許庁審査官が作成した実用新案技術評価書を提示して警告した後でなければ、自己の実用新案権の侵害者等に対し、その権利を行使することができないとされていることによる。特許庁審査官が作成する当該実用新案技術評価書において実質的な審査が行われるため、何十年も昔から存在する周知の技術について権利行使をすることが困難になるのである。  
中国においても、日本の実用新案技術評価書と類似した、知識産権局が作成する検索報告書というものが存在するが、侵害訴訟においては、人民法院等は、実用新案権者に、当該検索報告書の提出を求めることができると定められているにすぎず、検索報告書の取得は訴訟提起の要件とはされていない。そのため、中国においては、日本のように権利行使に先立って実用新案技術報告書を作成する必要はないのであって、訴え提起後に、人民法院の要求に応じて、知識産権局に対して請求すれば足りる。  
このため、新規性のない実用新案権に基づいて権利行使をされてしまうというリスクがかなり高い。しかも、権利者は、通常の本案訴訟のほかに、短期間で判断がなされる可能性のある仮処分申立て(訴前差止申立て)や行政処分を要求する可能性があり、これらに対向する必要がある。
 
   
  2 リスク回避策  
  上記の権利行使に対抗する手段としては、@無効審判の請求、A訴訟手続内での非侵害及び無効理由(新規性欠如)の主張、B差止請求権不存在確認請求訴訟の提起が考えられる。そして、かかる手段をとるにあたって重要なことは、早期に先行技術調査をするということである。先行技術調査を行って、新規性欠如を主張するに足りる公知文献を十分に収集しておくことで、いつでも対抗できるのである。  
もっともオーソドックスな対抗策は、実用新案権の無効審判を請求することである。無効審判を請求するだけであれば、費用も高額にはならないし、なにより、無効審判の手続では差止や損害賠償のリスクはないからである。無効審判の請求人については、要件はないので、誰もが無効審判請求をすることができる。  
他方で、先行技術調査の結果、実用新案権の新規性を欠如させる公知文献の存在を確認できた場合には、本件各実用新案権の無効審判を請求せずに、権利者が仮処分を申立て又は侵害訴訟を提起した場合に、その抗弁として新規性欠如を主張することも考えられる。この場合は、相手方が権利行使をするまで待つことになるため、相手方が権利行使をしてこなければ高額の費用が発生しないと いうメリットがある。ただし、権利者が 仮処分を申立てた場合に早急に対応す る必要があることから(申立てから48時 間以内)、事前に、中国の代理人を選任し て、仮処分が申立てられた場合に、迅速 に対応できるよう十分に準備をしてお く必要はある。  
差止請求権不存在確認訴訟を提起す ることについては、終局的な解決は可能 であるが、訴訟提起には一定の要件があ ることや、差止や損害賠償のリスクを負 うというので、選択は慎重に行うべきで ある。  
また、先行技術調査や無効審判につい ては、他の複数の競合メーカとで協力し て費用を分担のうえ無効審判を請求し ていくという方法も考えられる。費用と 情報を共有することで、効果的な対応が 可能となる。  
いずれにしても、中国における知財リ スクに関しては、モグラ叩き的なところ は否定できないものの、中国が世界有数 の市場であることからすると、それに見 合った知財対策用の予算を組むことも 重要になろう。
 
       
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