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知的法講座
 中国知的財産権講座
知的財産権保護制度の概要
侵害行為に対する対応策(4)――紛争解決手段(行政ルート)と紛争解決手段の選択
 
黒田法律事務所 吉村誠 弁護士 ■略歴■
京都大学工学部建築学科
最高裁判所司法研修所
日本弁護士連合会登録・東京弁護士会登録 (52期)
黒田法律事務所
吉村 誠 弁護士
 
中国では、担当行政機関による紛争解決制度(行政ルート)、税関、国家品質監督検査検疫総局による取締り制度が存在する。行政ルートによる紛争解決は、担保不要、迅速性の面で優れるものの、損害賠償請求や財産保全申立ができない点、及び、証拠収集、強制執行の確保の点で、司法ルートによる解決に較べ劣り、また、地方保護主義が根強く残る地域では、実効性を期待できないという欠点がある。
 
  1 行政ルートによる紛争解決手段  
  (1) 司法ルートとは別に、行政機関が知的財産権侵害の調査、取締りを行う。商標権侵害、及び反不正当競争行為については工商行政管理局が、特許権侵害については特許業務管理部門が、著作権については版権局が、担当行政機関である。行政機関の権限及び決定の効力は、地方政府の範囲内に限定されるため、侵害行為が複数箇所で行われている場合には、各侵害行為地の行政機関に対し、調査処理を申立てる必要があり、侵害者が調査に協力せず、又は偽証をした場合でも、これに対し強制的な措置を講ずることができないという短所がある。また、申立前の差止請求、財産保全の制度はなく、損害賠償について申立てをすることはできない。行政機関の決定につき、被申立人自ら義務を履行しない場合、当該決定の確定、又は行政訴訟判決の確定を待って、申立人は行政機関を介して人民法院に強制執行を申立てることができる。
(2) 商標権侵害に対する工商行政管理局による救済
工商行政管理局は、商標権を侵害した者に対し、侵害行為の即時停止、権利侵害商品の製造、標識偽造に専ら使用する道具を没収及び廃棄することができ、また、行政罰として過料を命じ、損害賠償の調停を行うことができる。
(3) 特許権侵害に対する特許業務管理部門による救済
特許業務管理部門に対し、特許権侵害行為の調査、証拠の収集、及び侵害行為の停止、侵害品等の廃棄等行政的救済を求めることができるが、被申立人に答弁書提出、弁論等の機会が与えられるため、密行性は保てない。審理期間は、都市部において概ね4〜6ヵ月で決定が出され、これを不服とする行政訴訟は第一審では3ヵ月以内に、第二審では2ヵ月以内に終結されるため、申立後約1年で最終判断が確定することが多い。
 
   
  2 その他の機関による救済  
  (1) 税関による救済
知的財産権を侵害する輸出貨物を税関で差押えることは、侵害拡大を未然に防ぐ有効な手段である。
税関に対する侵害被疑貨物の輸出入の取締りは、税関総署への知的財産権の登録と、当該貨物の輸出入を管理する税関への侵害被疑貨物の差押え申請の2つの手続により実施される。
税関総署への知的財産権の登録は、差押え申請とともに行えるが、迅速に差押えを行うためには、事前に登録をしておくことが望ましく、税関総署に知的財産権の登録をしていれば、税関が侵害被疑貨物を自ら発見した場合には、権利者に通知する。
権利者が知的財産権を侵害する疑いのある貨物が輸出入されようとしていることを発見した場合、輸出入が行われようとする地の管轄の税関に対し、被疑物品の実物、パンフレット、写真等、権利侵害の事実を証明できる十分な証拠資料の他、担保を提出して、当該侵害被疑貨物の差押えを申請することができる。税関において仮差押えの措置が執られても、被申立人が異議を述べ担保を提供して通関を請求した場合、申立人は、人民法院に訴提起前の差止、及び財産保全を申立てる必要があり、一定期間内に、税関が人民法院から執行協力通知を受領しない場合には、当該期間徒過により、税関は通関を許可しなければならない。非侵害につき充分な疎明があった場合も、税関は通関を許可しなければならない。
通関許可の要件を満たさないと判断した場合には、税関は、被疑貨物を没収し、没収された被疑貨物は、社会公益事業への利用、購入意欲のある権利者への譲渡がなされるが、権利侵害の特徴を削除できる場合には削除した物品を競売に付すことができる。従って、侵害品の商標が容易に削除できる場合には、商標のみが削除された物品が競売手続を経て市場に流入することになる。このため、商標権侵害が同時に意匠特許権等他の知的財産権侵害を構成する場合には、商標権以外の権利に基づく差押えを申立てる方が得策である。なお、実用新案特許権の税関総署への登録は、知識産権局の発行した新規性、進歩性に関する検索結果の提出が必要であり、著作権の税関総署への登録には、著作権者であることを証明できる証拠として、登記証明の写しを提出することができる。
(2) 国家品質監督検査検疫総局による救済
侵害品が身体、生命、財産に対し重大な危険を及ぼす等、品質に問題がある場合には、国家品質監督検査検疫総局に通報することにより生産販売活動に対する調査、商品、原材料、生産工具等の差押え、及び行政処罰の発動を促すことができる。
 
   
  3 紛争解決手段の選択  
  紛争解決につき、司法ルートと行政ルートとを対比すると、一般的に、行政ルートによる場合は、証拠の採用基準が緩く、手続が簡単で費用が安価であり、処理が迅速という長所があるが、行政機関の判断は管轄範囲内にしか及ばず、証拠収集の実効性に欠けるとともに、強制執行は人民法院への申立を経てしか執行できず、損害賠償の申立ができず、財産保全制度もない、という短所がある(表1参照)。
このため、簡単な案件で証拠が明瞭であって、損害賠償請求ではなく、侵害行為の停止を目的とする場合には、行政ルートによる解決を第1次的に選択し、その他の場合には、司法ルートのうち本訴による解決を図るということを1つの目安とすることもできる。
なお、人民法院に民事的救済を提起した後は、行政ルートによる救済措置を申立てることができないが、行政ルートへの申立後に人民法院への提起はできる。

表1. 行政ルートと司法ルートによる特許権侵害に対する救済手続の比較
  行政ルート 司法ルート(仮処分) 司法ルート(本訴)
証拠保全 ▲(強制力なし)
財産保全 ×
密行性 ×
(但し裁判所の裁量により被申立人の意見を聞く場合あり)
×
審理期間
数ヶ月 (行政訴訟2審確定までさらに約5ヶ月)
48時間以内 (異議申立によっても執行は停止しない)
一審:約一年
二審:約3ヶ月
担保の要否 不要 必要 不要
強制執行力 ×
損害賠償 × ×
 
   
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