| 1 青色発光ダイオード職務発明事件 |
| 東京地裁は日亜化学工業株式会社(本店・徳島県阿南市)在職中にノーベル賞級といわれる青色発光ダイオード(LED)の発明をし、特許権を会社に承継させ莫大な利益を取得させたとして、元従業員中村修二氏(現米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)へ職務発明の対価として200億円を支払うように会社に命じた@。日亜化学は直ちに東京高裁に控訴したため、控訴審判決が注目されるA。この判決について未来の研究者をめざす子供たちに夢を与えるものだという意見や、裁判所は会社の将来利益や発明者の貢献度を高く見すぎていて企業の存続を危うくするとの意見がある。 |
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@東京地裁は日亜化学がこの発明の実施で1208億円の利益を上げ、中村氏の貢献度を50%とみて、中村氏が取得できる相当の対価は604億円と認定、中村氏の請求額200億円の全額を認容した。知的財産権(IP)事件では、02年に東京地裁が特許権侵害の損害賠償として約84億円の支払いを命じ、訴訟での巨額な判決の到来と言われたが、本判決はその額をはるかに上回る空前の巨額を認容したものである。
A日亜化学は一審判決の仮執行を免れるため100億円を供託して東京高裁から執行停止決定を取得し、一方中村氏は判決後の記者会見で、控訴審では一審判決の認定に従い404億円の追加請求をする意向を示した。 |
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| 2 職務発明に関する特許法と判例 |
特許法では従業員が完成した職務発明は従業員個人が特許権を取得し、会社はその特許発明の無償の通常実施権(ロイヤルティを支払わずに実施できる権利)を取得し、また勤務規則等でその特許権を従業員から会社に承継させることができ、会社が承継した特許権の実施により利益を得た場合、従業員は会社に対して相当の対価を請求できると規定しているB。会社がその特許権の実施で莫大な利益を挙げているのに、勤務規則等による対価の額が少ないとして元従業員が会社を訴える訴訟が相次いでおり、裁判所は巨額の対価を認容する傾向にある。
他にも日立金属事件の一審判決は1232万円C、日立製作所光ディスク事件の一審判決は約3500万円、その控訴審判決は1億6300万円D、味の素事件の一審判決は1億8900万円の支払いを命じたE。また、03年10月28日に沖縄在住の元三菱電機の社員が2億円、04年3月2日には元東芝の社員が10億円のそれぞれ請求訴訟を提起したF。 |
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B特許法35条。相当な額は会社が受ける利益と会社が貢献した程度を考慮して定めなければならない。なお職務著作は勤務規則等に規定がなければ従業員でなく会社が著作権を取得する(著作権法15条)。
C東京地裁03年8月29日判決。
D一審判決は東京地裁02年1月29日判決、控訴審判決は東京高裁04年1月29日判決。
E東京地裁04年2月24日判決は味の素の元従業員が人工甘味料の職務発明の対価として20億円を請求したことに対し、会社の得た利益は約80億円で発明者の貢献度は2.5%であるとし、約1億9900万円で相当の対価となり、既に支払われた1000万円を控除した1億8900万円の支払いを命じ、双方が控訴した。
F半導体メモリー「フラッシュメモリー」の基本構造を発明し会社から従業員に500万円が支払われたが、従業員は売上額が4兆7000億円であるから相当の対価は58億円で、その一部金2億円の請求訴訟を那覇地裁に提訴した。また、同じフラッシュメモリーに関する発明をした元東芝社員の舛岡富士雄氏(現東北大学電気通信研究所教授)が会社は200億円の利益を取得し発明者の貢献度が20%で相当な対価は40億円であり、その一部10億円を請求し、04年3月23日の第1回口頭弁論で東芝は「桝岡教授の発明は(先駆的な発明ではなく)単なる改良発明で半導体業界ではほとんど実施されていない」と争う答弁を行ったと報道されている。 |
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| 3 特許法改正 |
日本企業には相当の対価の額を増額する勤務規則等の変更を行うところも出てきたが、全体的には依然として低いG。日本政府は「知財立国」を掲げ知的財産基本法にも発明のインセンティブを従業員に持たせるべく適切な処遇の確保に努めるよう規定しH、優秀な発明者を企業につなぎとめておく必要から、相当の対価が巨額になれば経営の危機に陥る危険性がある。
危機感を強めた企業側の意向を受け、発明者の意見を十分反映させて会社と従業員が金額等を事前に合意する手続きをとることができる等を骨子とする特許法改正案が国会に提出され、今年3月に可決成立の見込みであるが、勤務規則等で発明者の意見を十分反映させる等会社と従業員が合理的に合意する手続きを設けることができるとするものの、基本的な考え方に変更はなくI、今後もこの種訴訟が続くとみられる。
米国では法律に職務発明規定はなくJ、企業が研究者と契約をして研究開発を進め、一般的には研究者に巨額の対価は支払われていないことから、日本企業の中には日本での研究開発を断念した上で米国に子会社を設立し、そこで研究者を雇用し研究開発させて米国流を採用して支出を抑制する対策や、研究開発を日本の他社に委託することにより特許法35条の適用を回避する方策が提案されているが、それでは日本企業の日本での研究開発が衰退し、また、製造企業の自社内での研究開発が衰退する危険があるK。 |
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G青色発光ダイオード事件では中村教授が日亜化学から受領した額はわずか2万円にすぎなかった。現在、一部企業では対価の額を億単位にまで増額したり、額の制限を撤廃したりするところも出てきている。
H知的財産基本法(02年12月4日法律第122号)第8条2項。
Iオリンパス事件の東京高裁01年5月22日判決は特許法35条の規定を労働者保護の強行規定と解し、会社が勤務規則で額を決めていても無効であり相当の対価との差額を請求できるとし、最高裁03年4月22日判決も高裁判決を是認した。改正案は強行法規性を踏まえたもので企業側の不満は残る。
J米国では特許権は発明者に帰属し、職務発明の特許を受ける権利を会社に譲渡するか否かは自由契約とされ、判例法では職務発明は従業員から会社への譲渡義務が発生する発明、会社にいわゆるショップライト(shop-right)という優先購入権が与えられる職務発明、自由発明の3種類に区分されている。
K井上雅夫氏「職務発明事件の裁判所の認定判断」(yahoo JAPANホームページ=HP=)参照。 |