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ビジネス特集
新春特集:私はこう見る2008年"中国商流"
【金融】ファンダメンタルズは堅調 当局の金融引き締め動向に注目
三井住友銀行 企業調査部(上海)グループ長 薗田直孝 氏

三井住友銀行 企業調査部(上海)グループ長 薗田直孝 氏
ここに注目!
外需や個人消費拡大を背景に中国経済は高成長を維持
利上げほか金融政策が継続的に実施される可能性が高い

高水準で推移しているCPIには来年も根強い上昇圧力が続く。高止まりしている株価も今後大きな下ブレの可能性は限定的とみられる。また中長期的にみれば貿易黒字の積み上がりも不可避で、個人消費の更なる拡大も見込まれる。こうした堅調なファンダメンタルズを背景に、中国経済は 2008年も引き続き高成長を持続する見通しである中、当局の金融引き締めスタンスが注目される。

ここ数年、世界経済が「インフレ無き高成長」を長期間にわたって享受してきた中で、堅調な発展を遂げ今や世界第4位の経済大国となった中国は、今後も高い将来性が期待される成長マーケットとの位置付けにある。
一方、グローバリゼーションが着実に進展する中、足元ではサブプライム問題に端を発した米国ほか世界経済の先行き不安も指摘されており、北京五輪の開催を控えた中国が、環境・省エネのほか、品質問題や知財権保護といった観点も踏まえつつ、いかに質の高い経済発展を持続させていくのか注目されている。
ここでは、今後の中国経済の趨勢を占う上で重要なポイントとなる「インフレ」、「株高」、「貿易黒字」について個別にみた後、2008年の動向を展望する。
CPIの推移(図表1)
インフレ懸念 高水準の推移見込む物価
中国のCPI(消費者物価指数)は2006年末頃から上昇トレンドを辿っており、8月以降は6%超と約11年ぶりの高水準で推移している(右:図表1参照)。物価上昇の主たる要因としては、CPI 構成ファクター全体の3割強を占める食品価格が大幅に上昇したことが挙げられる。
なかでも中国の食肉需要の約3分の2を占める豚肉の価格は、バイオ燃料向けに需要が急拡大している飼料用のトウモロコシ価格が高騰し、養豚に係るコストが上昇したほか、内陸部で発生した伝染病により大量の豚が病死し供給不足に拍車がかかったことなどから、高止まりが続いている。さらに足元では、価格高騰が続く豚肉に代わる動物性たんぱく質を確保するために鶏肉や魚介類などの需要が盛り上がっているほか、野菜などでは便乗値上げの動きも見受けられるなど、食品価格全体が上昇している。
中国国内では経済・所得格差が拡大している中、「和諧(調和された)社会」の実現を標榜する政府当局は実質所得にマイナスの影響を与えるインフレ進行に対して強い警戒感を有している。なかでも、低所得者層に与える影響が大きい食品価格の動向に注目しており、当局は国家の備蓄食糧を市場に放出するなど、物価高騰の沈静化に注力している。
加えて、中国のインフレ動向を語る上では、目先の食品価格動向のみでなく、経済の構造的な観点からも考察しておく必要がある。足元では原油ほか原材料の国際市況が高水準で推移している上、中国国内では元高の進行や人件費の上昇を背景に生産コストの上昇圧力が相応に高まっている。その一方、現地に進出する日系企業の間では、日本国内の消費に大きな伸びが期待し難い中で、これまではコスト上昇分を製品価格に転嫁し値上げした場合、売上が伸び悩むことを懸念する傾向が根強かった。
もっとも06年末頃から、現地に進出する日系の食品加工業者やアパレル業者からは、コスト上昇圧力に耐え切れず、日本向け輸出製品価格の値上げに踏み切る動きも出てきており、これをデフレ経済終焉に向けた大きな潮目とみる向きもある。
因みに、中国政府は原油価格の高騰を受け、07年11月からガソリンと軽油価格の約+8%の値上げを実施したが、大手国有石油会社の石油精製・小売部門の逆鞘を解消するには依然不十分とみられる中、業界では08年初頭に石油製品の一斉値上げが実施される可能性も指摘されている。
以上のポイントを踏まえれば、08年における中国の物価上昇圧力は根強い状態が続き、さらにはこうしたインフレ傾向が長期化した場合、利上げほか金融政策が継続的に実施される可能性は高いとみられる。但し、中国では為替市場が未だ十分な柔軟性を有していない上、欧米マーケットでは利下げ実施が進んでいる中で、中国が利上げを進めた場合、中国国内へのホットマネーの流入が加速する懸念もあるだけに、当局は政策実施にあたって慎重なスタンスを採るとみられ、今後の動向が注目される。
株式市場の動向 下振れの可能性は限定的
06年初頭には1,000P強であった上海総合株価指数は、07年10月の共産党大会の頃まで急速に上昇を続けてきたが、これまで香港市場に上場していた大手国有企業による本土A株市場への相次ぐ上場に伴い供給圧力が高まっていることもあり、いったん 6,000P超になって以降上昇トレンドは一服し、足元では5,000P内外で推移している。
株価上昇の背景には、05年から続く非流通株問題を含めた証券市場改革が奏効してきているほか、インフレの進行に伴い預金金利が実質マイナスとなっている中、個人投資家の間には「貯蓄より投資」の流れが根強いことが挙げられる。また、国内の社会保障制度が未整備であり、かつては全て国家が担っていた住宅や医療保険、教育費などが人民個人の負担となっていることも個人投資家が株式投資を進める背景の一つとなっている。
中国では不動産や株式の売買で得られるキャピタルゲインも個人消費を下支えする重要な要素であるが、不動産セクターでは05年以降の政府による投資抑制策が奏功し、物件の転売が容易でなくなっている。一方、中国国内には投資先を模索している過剰流動性が溢れている上、個人投資家の資産運用手段が限定的である中、株式市場は今や人民にとって数少ない"打ち出の小槌"となっている。
このため、株価急落の局面には政府当局がPKO(株価維持政策)を採ることも想定されるため、今後も株価が大きく下振れる可能性は限定的とみられる。但し、中国株式市場は個人投資家の思惑で大きく左右される流動性相場の域を未だ脱していないだけに、株価の推移には引き続き注目しておく必要があろう。
産業セクターの貿易収支(図表2)
堅調な推移が見込まれる貿易 注目される貿易黒字の趨勢
WTO加盟以降、中国の貿易総額は拡大ペースが増しており、07年には遂に2兆米ドルを超え、世界第2位の貿易大国であるドイツに迫る勢いで推移している。その一方、足元では貿易黒字が毎月250億米ドル内外のペースで積み上がり、通年では2,500億米ドル超に達する見込みで、欧米諸国との貿易摩擦は深刻化している。
ここで中国の貿易構造を産業セクター別にみれば、かつてより貿易黒字の稼ぎ頭である「繊維・アパレル」が依然として重要な地位を占めている。もっとも、ここ数年は江蘇省蘇州や無錫に進出した台湾地区系メーカーによるパソコンほかハイテク製品などの輸出も急速に拡大しており、07年には「一般機械・電気機器」が全産業セクターの中で最大の貿易黒字を計上する見込みだ(左:図表2参照)。
加えて、数年前から相次ぐ増産投資と供給過剰が問題視されている鉄鋼ほか「金属」も06年から輸出超に転じている上、華南地区の広州市周辺を主体に今後更なる投資が見込まれている自動車セクター、及び、足元で急速に国際競争力を高めてきている造船セクターなど「輸送用機器」の輸出拡大も見込まれる。
こうした中、06年9月以降、輸出抑制策が打ち出されており、07年7月1日からは2,800品目超に対して輸出増値税の還付率取消・引き下げが実施された。ここでは、これまで手付かずであったアパレル製品にも鉈が振るわれてはいるが、ここでの輸出増値税の還付率引き下げ幅は2%に止まるなど、国内産業や雇用への配慮もうかがえ、業界関係者からは同施策の効果を疑問視する声も既に聞かれている。
さらには、今後中国国内で産業の高度化・高付加価値化が進展するに伴い「一般機械・電気機器」や「輸送用機器」の貿易黒字の増加が見込まれることなどから、中長期的にみれば、中国の貿易黒字の積み上がりは不可避とみられる。
但し、足元ではサブプライムローン問題に端を発した米国ほか世界経済の先行きに注目しておく必要がある。中国では、ここ数年貿易相手国の多様化が進展している(商用車の輸出先はアフリカや中東などが主体)上、対ユーロでみれば元安基調で推移している中、EU向け輸出の伸びも期待される。一方、今後米国において雇用や消費にマイナスの影響が顕在化すれば、対米輸出が減速する可能性もある上、最近ではEU経済の先行き懸念を指摘する声も聞こえてきているだけに、欧米ほか世界経済の趨勢が中国の貿易動向に与える影響を適確に見極めていく必要があろう。
08年は高水準の成長を維持 注目される産業構造の変化
足元では膨大な過剰流動性を背景とする経済の過熱に対する懸念も指摘されているなか、当局による金融引き締めスタンスが強化されてきており、政府が打ち出す政策動向が注目されている。もっとも経済全体をみれば、ファンダメンタルズは堅調であり、地方を中心とした固定資産投資の伸びに加え、根強い輸出や所得水準の向上に伴う個人消費の拡大も見込まれることなどから、中国経済は08年も引き続き高水準の成長が持続する見通しである。最後に、今後日系参入各社が中国事業戦略を展望する上で注目しておくべきポイントを挙げる。
○消費構造の行方〜「消費の大衆化」の兆し…先般の党大会において「民生」 (民衆生活)の改善が強く打ち出されたほか、08年1月からは労働者の権利保護を主眼とした「労働契約法」が施行される。また足元では食品価格の上昇に加え、農業税の撤廃や政府からの補助金などにより農村部の現金収入が増加するなど、中・低所得者層の生活環境の改善に向けた動きが打ち出されており、これまでの政策による具体的な成果が徐々に顕在化してきている。
こうした中、中国の消費マーケットではこれまでの「高額所得者主体の局所的な消費ブーム」から、今後「中・低所得者も含めた消費の大衆化」が進展する可能性もあろう。
○チャイナプラスワン…アパレルや玩具などの産業セクターでは、これまで低廉且つ豊富な労働力を背景とした「世界の工場」である中国の強みを活用し競争力を確保してきた企業の事例が多くある。もっとも、生産コストの上昇が進展する中、無理なコスト削減の弊害として品質問題も発生している。さらに今後は元高の進行や金利上昇といった金融環境に加え、政府による輸出抑制策の効果が顕在化し、各社を取り巻く事業環境が変化していく可能性がある。
こうした中、参入メーカーの経営陣からはヴェトナムほか近隣アジア諸国への生産移転を展望する声も聞かれる一方、原材料の現地調達体制や物流インフラの充実度などに鑑みれば、短納期要請に対応できる新たな生産拠点の立ち上げや新規生産ラインの育成は容易でなく、当面現行の生産体制を維持せざるをえないとする実務担当者の声も根強い。
もっとも、これまで日系メーカーが誇ってきた高品質や納期遵守といった強みが足元で脅かされつつある中、まずはローテク製品のほか、季節性や流行に大きく左右されない定番品から中国以外への生産拠点シフトを模索するなど、次世代を展望したグローバル戦略を検討していく必要があろう。
薗田直孝 氏(そのだ・なおたか)
住友銀行(現三井住友銀行)に入行以来、ほぼ一貫して調査畑を歩む。東京の調査部を皮切りに約5年の香港地区勤務を経て、2003年より上海駐在。現在は中国マクロ経済から個別産業の動向に至るまで幅広くカバーし、内外への情報発信を手掛けている。

三井住友銀行 中国統括部
上海市浦東新区陸家嘴環路1000号匯豊大厦30F
[電話] 021-6867-4750
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2008/2/25 更新
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