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フィールドワークとしての中国不動産市場 第16回:低迷を続ける深セン住宅市場(後編)
表とグラフから、昨年8月から深圳で取引量が下落しはじめたことがわかる。その後、2カ月遅れて広州、さらにその1カ月後に北京でそれぞれ取引量の下落がはじまった。上海は北京の下落から1カ月遅れて12月から低迷色が強くなった。今年以降は、4都市ともに前年同月比のマイナスが続いている。

深圳は4都市の中で、もっとも下落が激しく、特に昨年10月から今年2月までは軒並み70%以上の減少となった。過去1年の住宅取引量の動向をみると、好調だった今年7月以前と8月以降の格差が歴然としていることが分かる。この落差は、他の3都市ではみられなかった。深圳が現在の住宅市場の低迷の引き金になった理由はいくつか考えられるが、大きくは香港地区からの影響であろう。香港地区と深圳市南山区を結ぶ「深圳湾公路大橋」の開通による利便性を見越した香港地区からのホットマネーが南山、とくに蛇口エリアの住宅に一気に流れこんだといわれている。蛇口エリアの海岸線沿いに建ち並ぶ高級住宅が住宅価格を一気に引き上げた。開通が昨年7月であることから、ちょうどこのあたりにホットマネーの流入が一服に向かい、その後に大幅な反動が市場を襲ったと考えられる。次に、昨年7月、香港市民の深圳における住宅購入が原則1件のみに限定されたことも大きな影響を与えた。06年7月に発表された外資規制では購入件数に制限がなかったこともあり、多くの住宅に投資ができる状態だった。

また、香港地区において、米国のサブプライムローン問題や原油高、インフレなどの影響による世界経済の先行き不透明感が中国大陸における不動産投資に影響を与えるとの憶測が広まったことも理由のひとつだろう。今年に入ってからは、中国大陸で開発をおこなっている香港デベロッパーや香港に上場している中国大陸デベロッパーの資金繰りがたびたび報じられるようになった。

一方、大陸側の事情も大きな影響を与えた。まずは昨年9月に発表された住宅ローン政策である。これにより投資目的での不動産購入に一定の敷居が設けられた。このあと中央政府は、市中銀行に対する窓口規制を実施し年末までの人民元貸出残高を10月末の残高を超過してはならないという政策をだした。インフレの台頭による金融引き締め政策が継続され、住宅市場では購入を見合わせる動きが一気に広がった。
深圳の低迷状況は、デベロッパーの住宅販売戦略にも大きな影響を与えた。たとえば、宝山区にある住宅プロジェクト「航程国際公寓」では住宅ローンの頭金のうち、半分を負担すれば購入の手続きがとれる方法を採用していたのである。残り半分の頭金はデベロッパーが立て替え物件引き渡しの今年 8月30日までに、住宅購入者が頭金を返済する予定だったという(08年5月13日付『南方都市報』)。頭金を支払う能力がない住宅購入希望者にとって、「頭金肩がわり方式」は、住宅購入の夢をかなえるチャンスと映るが、ローンを返す能力がない住宅購入者をつくり出す方式であると考えることもできるだろう。このしわ寄せは、ローンを実行した銀行に向かうことになり、銀行は、不良債権リスクを背負うことになる。現在、当局の通知により、「頭金肩がわり方式」は禁止されている。

深圳が中国大陸側の影響のみを受けるのならば、おそらくここまで低迷することはなかっただろう。現在の住宅市場の低迷は、それ自身が置かれた「板挟みの特殊な状況」から引き起こされたものと考えられるだろう。深圳は、香港地区から中国大陸につながる窓口としての機能を担っていることから、住宅市場が中国大陸のそれを代表しているわけではない点に注意する必要がある。しかし、深圳から端を発した中国における住宅市場の調整は、中国全体に相当のインパクトを与えたのは間違いない。
以前のコラム
フィールドワークとしての中国不動産市場 第15回:低迷を続ける深セン住宅市場(前編)
フィールドワークとしての中国不動産市場 第14回:政策的ジレンマの中における中国不動産投資(4)
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フィールドワークとしての中国不動産市場 第2回:統計の数字と一次資料
フィールドワークとしての中国不動産市場 第1回:統計嫌いの不動産市場調査
情報提供: Stasia Capital Holding Limited
2008/11/26 更新
筆者:安田明宏氏
Stasia Capital調査部主任研究員
プロフィール…名古屋大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学。インドネシア・スラバヤ国立大学大学院国家教育研究科博士課程留学。専攻は文化人類学。


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