ビジネス連載

(撮影:村岡健司)
誤ったロケーション選択、家賃の高騰、人材の引き抜き、類似店や便乗商法...飲食業に存在するさまざまなリスクを、いかに克服していくか。地元資本もまた「脇」が甘い経営ではすぐ足元をすくわれてしまう。「商品力」や「企画力」だけでは生き馬の目を抜く上海での成功は覚束ない。
「土家焼餅」の舞台裏
皆さんは、2年前のちょうど今頃「土家焼餅」という中華風のピザが大流行したことを覚えているでしょうか。
スパイシーな味付けで、タレの香ばしさともちもちの生地が絶妙にマッチして美味しく、寒い日でも店から漂う香ばしい匂いに誘われて長い行列ができ、出来たてを頬張りながら歩く若者をあちこちで見かけたものです。店舗を経営する側も、フランチャイズ加盟料が設備等も含めて3〜5万元程度と安く、小さな路面店舗さえあれば低投資で高収益を望めるビジネスモデルとして注目を集めました。一時は、「上海のファストフード勢力地図を塗り替えるのではないか」と大いに期待された「土家焼餅」でしたが、たった一年足らずで衰退してしまいました。
その原因の一つにレシピの流出があります。流出したのは「土家焼餅」発祥地の湖北省からと噂されますが、ブームが起きて間もなく、インターネットショップで数十元払えば誰でも「土家焼餅」の詳細な技術資料が手に入るという事態になり、それでもパテント登録のない本家「土家焼餅」チェーンは全く手の打ちようがありませんでした。瞬く間に類似店が街に溢れ、どれが本家本元か見分けがつかなくなってしまったのです。類似モノは味も食感も落ちるため売行きが急速に落ち始め、やがて「土家焼餅」人気は失墜し、本家諸共自滅の道を辿ったのです。
中国の「儲かるものに皆が手を出す」風習は今も昔も同じで、そのために自滅した伝統商品も少なくありません。「中国緞通(シルク絨毯)」などはその典型でしょう。一度失墜した信用は二度と回復しません。
「土家焼餅」の舞台裏
皆さんは、2年前のちょうど今頃「土家焼餅」という中華風のピザが大流行したことを覚えているでしょうか。
スパイシーな味付けで、タレの香ばしさともちもちの生地が絶妙にマッチして美味しく、寒い日でも店から漂う香ばしい匂いに誘われて長い行列ができ、出来たてを頬張りながら歩く若者をあちこちで見かけたものです。店舗を経営する側も、フランチャイズ加盟料が設備等も含めて3〜5万元程度と安く、小さな路面店舗さえあれば低投資で高収益を望めるビジネスモデルとして注目を集めました。一時は、「上海のファストフード勢力地図を塗り替えるのではないか」と大いに期待された「土家焼餅」でしたが、たった一年足らずで衰退してしまいました。
その原因の一つにレシピの流出があります。流出したのは「土家焼餅」発祥地の湖北省からと噂されますが、ブームが起きて間もなく、インターネットショップで数十元払えば誰でも「土家焼餅」の詳細な技術資料が手に入るという事態になり、それでもパテント登録のない本家「土家焼餅」チェーンは全く手の打ちようがありませんでした。瞬く間に類似店が街に溢れ、どれが本家本元か見分けがつかなくなってしまったのです。類似モノは味も食感も落ちるため売行きが急速に落ち始め、やがて「土家焼餅」人気は失墜し、本家諸共自滅の道を辿ったのです。
中国の「儲かるものに皆が手を出す」風習は今も昔も同じで、そのために自滅した伝統商品も少なくありません。「中国緞通(シルク絨毯)」などはその典型でしょう。一度失墜した信用は二度と回復しません。

「中華風」ファストフードの興隆かと思われたが、ブームはいまや過去のものに…。(撮影:村岡健司)
「脇」の甘い経営では命とり
実は、上海の土家焼餅の火付け役である「土家焼餅大王」の社長は、過去にも「バービー饅頭」という超ヒット商品を生み出していました。しかし、売上絶頂期に経営上の問題で会社は内部分裂し、しかも後発企業に商標侵害で訴えられ、泣く泣く商権を手放してしまったという苦い経験を持っています。彼は「食品開発者としては一流だが、経営者としては三流だった」と当時の自分を振り返っています。
その後、周到な準備を行い、再起をかけて投入したのが「土家焼餅」でしたが、これも1年足らずで過当競争の波に飲まれて自滅しました。経営の「脇の甘さ」という点で同じ轍を踏んでしまったのでしょう。
上海という生き馬の目を抜くような大都会では、ほんの少しの油断も命取りになってしまいます。外食産業のみならず、飲食を営む路面店も同じで、入れ替わりがとても早い。それは、類似店の氾濫に押しつぶされてしまう場合もあれば、手塩にかけた職人が引き抜かれるケースもあります。また、近代的高層ビルの横に築 70〜80年の古いアパートがあるような、この街独特の所得層分布と人々の行動パターンを十分に調査せずロケーションを間違えたり、再開発による突然の立ち退きや家賃の高騰に振り回されたりすることがあるからです。
中国人、外国人を問わず「商品力」や「企画力」だけで上海の飲食業に参入するケースは多いのですが、それだけで成功する例は少ないと言えます。商品力と企画力を基礎に十分なリサーチを行い、それでも数年は赤字を覚悟して十分な資金を用意し、そして飲食業独特のリスク管理のために、人とお金を使って外堀を固めることが、上海飲食業進出の最低条件でしょう。
実は、上海の土家焼餅の火付け役である「土家焼餅大王」の社長は、過去にも「バービー饅頭」という超ヒット商品を生み出していました。しかし、売上絶頂期に経営上の問題で会社は内部分裂し、しかも後発企業に商標侵害で訴えられ、泣く泣く商権を手放してしまったという苦い経験を持っています。彼は「食品開発者としては一流だが、経営者としては三流だった」と当時の自分を振り返っています。
その後、周到な準備を行い、再起をかけて投入したのが「土家焼餅」でしたが、これも1年足らずで過当競争の波に飲まれて自滅しました。経営の「脇の甘さ」という点で同じ轍を踏んでしまったのでしょう。
上海という生き馬の目を抜くような大都会では、ほんの少しの油断も命取りになってしまいます。外食産業のみならず、飲食を営む路面店も同じで、入れ替わりがとても早い。それは、類似店の氾濫に押しつぶされてしまう場合もあれば、手塩にかけた職人が引き抜かれるケースもあります。また、近代的高層ビルの横に築 70〜80年の古いアパートがあるような、この街独特の所得層分布と人々の行動パターンを十分に調査せずロケーションを間違えたり、再開発による突然の立ち退きや家賃の高騰に振り回されたりすることがあるからです。
中国人、外国人を問わず「商品力」や「企画力」だけで上海の飲食業に参入するケースは多いのですが、それだけで成功する例は少ないと言えます。商品力と企画力を基礎に十分なリサーチを行い、それでも数年は赤字を覚悟して十分な資金を用意し、そして飲食業独特のリスク管理のために、人とお金を使って外堀を固めることが、上海飲食業進出の最低条件でしょう。
前回までの「中国路地裏経済漫歩」
中国路地裏経済漫歩 第7回:「面子」語らずして中国経済は語れず 日本の「世間体」消費との大きな差異
中国路地裏経済漫歩 第6回:上海で19年繁盛し続ける老舗バー 変わらぬ経営スタイルが「伝説」に
このコラムは日本中小企業ネット@上海(http://sme.shanghai.or.jp/)のメールマガジンでも配信しています。
情報提供:
Whenever CHINA 07年11月号
Whenever CHINA 07年11月号2007/11/08 更新
村岡健司 (むらおか・けんじ)氏
日中経済貿易センター 上海事務所所長
中国社会科学院 中日経済研究センター特約研究員
上海市外国投資促進中心高級顧問
日中経済貿易センター 上海事務所所長
中国社会科学院 中日経済研究センター特約研究員
上海市外国投資促進中心高級顧問
『週刊エコノミスト』(毎日新聞社)「チャイナウォッチ」にて連載中
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