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労働紛争判例分析:特別寄稿
回答なき回答は良き回答、労働契約法実施条例のインパクト
9月18日、労働契約法実施条例が、ついに公布された。

「労働契約法は怠け者を保護する法律だ」「市場の反応は災難の予兆を示している。今年は中国経済改革開放の30周年だが、人類史上かつてないこの偉大な改革は、労働契約法によって崩壊する可能性が大きい」――張五常氏(経済学者、香港大学経済金融学長、07年12月論文『新労働法の困惑』、08年1月論文『災難の予兆―新労働法を論ずる』より抜粋)。

「労働契約法は計画経済時代の70年式のテーブルだ。このテーブルに合わせて70年式の椅子や備品を配置していくと、気がついたら70年代の部屋の中に身が置かれている」――董保華氏(中国労働法第一人者、「労働法」「労働契約法」立法諮問委員、中国法学会社会法研究会副会長、華東政法大学教授、08年7月21日エリス・コンサルティング主催『労働契約法下の人事制度セミナー』講演より抜粋)。

「1978年、中国は偉大な経済改革を始め、偉大な成功を上げた。しかし、人類はモノを破壊する偉大な力も持ち合わせている。私が生まれた1910年の欧州は工業革命で輝いていた、しかし4年後の世界大戦で数百万人が死に、社会が崩壊した。誠に愚かな戦争だ。いまの中国経済の成功は、今後、100 年持続してほしい。私はもうすぐ永眠する人間だ。眠りに付けばものを考えることもできなくなるが、目覚めている皆さんが何事も熟慮してから行動するほどうれしいことはない」――ロナルド・H・コース氏( ノーベル経済学賞受賞者、米シカゴ大学上級研究員、08年7月18日シカゴ大学主催「中国経済改革セミナー」閉会スピーチより抜粋)。

コース氏のスピーチに会場総立ちの拍手が3分間止まず、出席者もコース氏自身も熱涙溢れた一幕があった。98歳と高齢のコース氏は、40年にわたり中国経済に提言し、人生の終幕に残した熱いメッセージは、中国史にどんな形で残るのだろうか?そして、労働契約法は中国史にどんな形で残るのだろうか?

労働契約法の主旨は大変良いが、結果的に「抜苗助長」(物事の発展法則を顧みずに、功を焦って方法を誤り、かえって良くない結果になってしまうことの喩え)になる。経済成長に取り残された労働者は、一部の企業に搾取され、女工哀史が再演されている。「労働者を助けよう」という立法は、「企業が強者、労働者が弱者」という理論に基づいている。さらに、この理論を労働者搾取現象に重ね合わせると、「企業が加害者、労働者が被害者」という構図が浮かび上がる。私の恩師である、中国労働法の第一人者・董保華教授の話を借りると、企業と労働者は、法によって「狼」と「羊」に位置づけられることだ。

労働法は複雑な人間・社会の関係を扱う法律として、労働者と企業についてもマーケティング学のセグメンテーションを意識しなければならない。さもなければガンの放射線治療のように、良い細胞が無差別に殺され、がん細胞が転移する一方、良い細胞の死滅によって患者の免疫機能が低下し、末期を迎える、このような最悪な結果になりかねない。

労働者には社会の最底辺でかろうじて食いつないでいる「弱者」もいれば、高学歴高収入の「強者」もいる。企業には労働者搾取の「悪」もいれば、遵法を最優先とする「善」もいる。労働契約法でどのくらいの「弱者」が救済されるのか、そしてどのくらいの「悪」が罰せられるのか、歴史が証明することになる。注目してほしいのは、「違法コスト」と「遵法コスト」だ。「遵法コスト」過大化の結果は、企業の違法と倒産だ。

労働契約法実施条例は労働契約法に見られる不明確な点を解釈し、明確な形にするのが役目だったが、実際に公布された条例はこの役目を果たすことができなかった。論争のあった無固定期間労働契約の「一回説」「二回説」の問題や労務派遣の「三性(臨時性、補助性、代替性)」問題、経済補償金の計算基準問題など数多くの問題は、回答がなされていない。

しかし、私は「回答がない」のが実施条例の回答で、しかも、これが一番良い回答だと思う。なぜなら、労働契約法はあまりにも多くの問題を抱え、特に一部センシティブな問題に対し明確な回答を出すと、問題がさらに大きくなるし、新たな問題が引き出される恐れもあるからだ。回答が出されていない部分については、今後、各地方がそれぞれ実施細則を出すだろうから、注目したい。いずれにせよ、今回の労働契約法実施条例は、現状に適合した大変良い条例だ。難題がまだ山積みで、不安も払拭されたわけではないが、当座新たな衝撃が最小限に抑えられただけでも、ホッと胸をなでおろす。
情報提供: BiZpresso Vol.54 10月7日発行
2008/10/22 更新
立花聡 氏
上海エリス・コンサルティング有限公司 総代表・首席コンサルタント  
華東政法大学 法学博士研究生  
復旦大学 法学修士  
中欧国際工商学院 経営学修士(MBA)

プロフィール…1964年生まれ、華僑系日本人。早稲田大学卒、トステム東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。94年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。00年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る
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