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労働紛争判例分析(2):人事異動は従業員と相談で決める、勝手な人事権行使で企業が敗訴に
判例
J公司が林さんを営業部マネージャーとして採用し、06年5月8日付け、2年間の固定期間労働契約を締結した。労働契約は、営業部マネージャーという職位名を表示する一方、「甲(企業)は、生産・経営の都合上、又は乙(従業員)の諸々の状況により、その職位を調整する権利を有し、乙はそれに従わなければならない」(第X条)と企業側の人事権を明示した。07年5月、J公司は、林さんに一通の人事辞令を交付する。辞令は、林さんに生産部班長への人事異動を命ずるものだった。
J公司の社内規定により、賃金も約5%程度ダウンする。林さんは辞令の受け入れを拒否。双方の協議も合意に至らず、林さんは、会社の一方的な人事異動は、労働契約の規定に違反し、自分を辞職に追い込むものだと主張する。J公司は、労働契約の第X条を提示し、会社が契約に従い、林さんの同意の有無にかかわらず、林さんの職位を調整する権利を有し、林さんはそれに服従する義務があることを説明した。その後も双方が数回交渉したが、合意に至らなかった。林さんは、労働仲裁を申し立てる。
分析
会社に人事異動を命ずる権利があるか否かを問う労働紛争である。人事異動とは、労働者が会社の人事辞令に従い、従来の従事する業務、職位、勤務場所などとは異なる別の業務、職位、勤務場所などに従事し、勤務することをいう。
人事異動は会社の自由だろうか。日本では、一般的に労働契約は労働者がその労働力の使用を包括的に使用者に委ねることを内容としているので、使用者が業務上の都合により労働者に配置転換や転勤などの人事異動を命ずることは原則として許されている。しかし、中国では状況が異なる。中国は、基本的に労働契約という文書に基づき、労使双方が権利と義務を享受、履行するわけであって、その過程において、契約上の条件に変更がある場合、双方の合意による契約の変更が必要とされる。
本事案では、職位の調整に関する企業と従業員の約定の有効性が焦点とされた。仲裁は、J公司と林さんが労働契約に約定した第X条は、一方的な都合による「格式条項」(注)であり、労働者の合法的権益を侵害するものと判断し、林さんの元の職位への復帰および賃金待遇の回復を企業に命じた。『労働法』第17条と『労働契約法』第3条は、いずれも労働契約の締結及び変更の際に、公平、平等、自由意思、協議・合意および信義誠実の原則を求め、一方的な「格式条項」を否定している。
J公司と林さんが締結した労働契約の第X条は、日本国内の人事労務現場の常識に基づいて設定されたものと思われる。日本本社の労働契約や就業規則を中国現地に持ち込んで、そのまま中国語に訳して使う企業は、条項内容の適合性に十分に留意する必要がある。
特筆に値することは、本事案は『労働契約法』実施前に裁決されたことである。『労働契約法』は、人事異動などを含む労働契約の変更を更に厳格化した。『労働契約法』第17 条によれば、労働契約には、「業務内容及び業務場所」(同条第(4)項)と「労働報酬」(同条第(6)項)を明記しなければならない。さらに、『労働契約法』第35条では、「雇用単位と労働者は、協議により合意したときは、労働契約に約定した内容を変更することができる。労働契約を変更するときは、書面形式を採用しなければならない」と定められている。
つまり、配置転換、人事異動、降格、減俸などは、会社の一方的な人事権行使として勝手に実行してはならないということである。いずれも、労働者と協議、合意のうえ、かつ書面によって、これら人事辞令の内容を労働契約の変更として、エビデンスを残さなければならな
このような法的環境を見れば、企業の人事異動の自由がほぼ剥奪されたものと認識せざるを得ない。あと期待できるのは、労働者の善意な協力、労働者の無意識な看過、企業の徹底的かつ有効な制度の構築と運用、この3点だけである。

(注)「格式条項」とは、日本語の法令用語では、「様式条項」、「フォーム契約」などと訳される。定型化されたフォーム(様式)が決まっており、契約条件の内容について当事者間で交渉する余地のないもの(Nonnegociable)、契約当事者の一方が既に契約書を準備しておいて、相手方に「はい、ここにサインしてください」といって締結する契約のことである。クレジットカードの入会契約などがそれに該当する。
以前のコラム
労働紛争判例分析(1)
情報提供: BiZpresso Vol.49 7月15日発行
2008/09/01 更新
立花聡 氏
上海エリス・コンサルティング有限公司 総代表・首席コンサルタント  
華東政法大学 法学博士研究生  
復旦大学 法学修士  
中欧国際工商学院 経営学修士(MBA)

プロフィール…1964年生まれ、華僑系日本人。早稲田大学卒、トステム東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。94年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。00年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る



立花聡 氏 上海エリス・コンサルティング有限公司 総代表・首席コンサルタント  
華東政法大学 法学博士研究生  
復旦大学 法学修士  
中欧国際工商学院 経営学修士(MBA)

プロフィール…1964年生まれ、華僑系日本人。早稲田大学卒、トステム東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。94年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。00年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る
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